2024.07.22

Patek 5004

Ref.5004 は 永久カレンダークロノグラフ Ref.3970 をベースにスプリットセコンド機構 (=複数計測を同時に行える) を搭載したモデルで、外観的には大きなリューズと2本のストップ針が特徴です。文字盤はアラビアインデックスの専用デザインですが ベースのダイアルそのものは 3970と全く同じで、3970とは兄弟のような関係性を持ったモデルと言えるでしょう。3970の生産が始まってから10年後の 1996年から 2012年までの 17年間に渡り生産され、その間に下位モデルは 3970→5970→5270と3世代にわたってモデルチェンジしていきましたが、その間もずっと5004は 生産され続けた訳です。17年間と言っても 最後期は極めて少ない年間納品数で「本当に今も作ってるのか?」とコレクターが疑う程でしたが。

 

総生産数に関しては「5004は作るのが大変で月に1本しか生産できない」という言説がずっと独り歩きしてきました。これが真実ならば 年12本×17年=204本しか存在しないことになってしまいます。オークションに出てくる頻度や、最後のスティールだけでも50-100本も作られた(もし4メタルで200本しかないなら、その25-50%もの本数をスティールで作る筈がない)という事実を考慮したら そんなに少ないことはあり得ません。3970、5970などの本数から推察しても どんなに少なくても1,000本程度は生産されたのではないかというのが昨今の定説です。個人的には 1500本あってもおかしくないと思います。

patek-philippe-reference-5004-1

 

Ref.5004
① 17年間と長い生産期間 (1996-2012)
②生産数は諸説あるが 4メタル全体で 1,000本前後説が有力
③基本的に文字盤はアラビア文字盤 (+リーフ針) となる
④3970との外観上の違いは大きなリューズとダブルストップ針
⑤5004 PT ではアラビア以外にダイアインデックスが選べた
⑥定価はその時の3970/5970 の160-180% (2倍弱)くらいに設定
⑦ベース文字盤は3970と共通 (窓の位置も同じで互換性あり)
⑧製造最後年にスティール製の5004Aを50-100個 限定生産
⑨リーフ針かストレート針かはダイアルによって決まる
⑩スペシャル文字盤は非常に多いが Tiffany は存在自体が不明
⑫日本定価は1,300万前後からスタートし 最終は3,000万超え

 

文字盤のデザインとケース
Ref.5004 のデザイン上の特徴は「アラビア文字盤になる」ことですが、3970Pのダイアインデックスや、時期によっては普通のスティックも選択できました。とはいえ肌感でいうと 5004 の80%以上 がアラビアではないでしょうか。他の文字盤は3970EPでも選択できるが「アラビアだけは5004専用」という位置付けでしたから当然です。アラビア文字盤は同じベース文字盤を使いながらも インダイアルのデザインや外周トラック、日付フォントや針形状も全て細かく変えており、パテックが世に出した ベストダイアルの1つに挙げられるでしょう。この3970と5004の不思議な兄弟関係はマーケットにも連動し、いつの時代も5004はだいたい3970の2倍前後の価格で推移していることが多く、ポールニューマンで言うと 6241/6263 の関係性に似ているかもしれません。針はアラビアの時はリーフ、3970文字盤にはストレートと覚えておけば間違いありません。

 

スクリーンショット 2024-07-13 13.58.13

スクリーンショット 2024-07-13 12.37.15

 

もうひとつ違うのはケースの厚みです。3970のケースも13mmとかなりの厚みですが、5004はさらに+2mm の15mmとなります。これによりクラシカルな印象は増幅され、時計単体でも見てもある種のオーラというか迫力が醸成され、伝説のモデルという雰囲気が。ただし厚みがあるぶん 3970より 装着した時のフィット感の低下は避けられません。

スクリーンショット 2024-07-11 21.57.07 2

スティール製の限定モデル 5004A
2012年頃に最後のムーブメントを使ってスティール製の5004Aを生産し限られた顧客に販売。スティック・インデックス仕様のグレー文字盤、リーフ針。実はアラビアダイアルをベース(インダイアルを見ればわかる)にスティック仕様にしたのはこれが初めて。50本限定で当時の定価は270,000CHF (当時の5004P よりも高価だった)。ムーブメント裏に購入者のイニシャル刻印という仕様。数が余りにも少なすぎると購入できなかった顧客から不満が殺到し 最終的には100本前後作られたとも言われています。スティック+リーフ針という組み合わせも異例で とても新鮮。この伝説のモデルの最もユニークなところは持つと軽いということなんです。スティール製ですからね。

IMG_4565

 

チタン製の限定モデル 5004T
2013年 オンリーウォッチでのチャリティオークションのために パテックがチタンケースの5004T を1本だけ生産し出品したもの。文字盤はソリッドゴールド製ですが、ブラック仕上げが施され、カーボンファイバーのように見えるハンドギョーシェ加工。 ホワイトゴールドのアプライド・インデックス、ホワイトの秒針、レッドのスプリットセコンド針というちょっと独特なデザインでした。

スクリーンショット 2024-07-16 23.45.35

 

スペシャル文字盤について
5004 はとにかく非常に多くのスペシャルダイアルが製作されました。それはやはり特別な顧客たちにとってもこのモデルが特別だったからでしょう。彼らがスペシャルオーダーの機会を得た時、やはり5004を作りたいと思う事が多かったのでしょうね。ただしTIFFANY は今のところハッキリと存在が確認された個体はありません。生産が需要に全く追いついていない状況でしたから ティファニー ブティックに納品されること自体がなかったのかもしれませんね。それではスペシャルオーダーの実例を見ていきましょう。

 

①エリック・クラプトンのために製作されたブルーの特別文字盤のユニークピース。12はブレゲ数字で 全体のデザインはロンドンエディションと同じタイプ。エリックにはブルーの他に ブラックの5004Rも製造されました。

スクリーンショット 2024-07-14 23.11.05

このデザインのものですと、12時のインデックスがローマ数字のⅫ のタイプもありますね。

スクリーンショット 2024-07-14 23.38.14

 

② MSO:Michael Steven Ovitz  (= ハリウッドのCAAエージェンシーの創始者) がオーダーした一連のシリーズ。上記のクラプトンモデルと同じタイプのデザインで12時のマーカーをローマ数字に変更し、MSO仕様のダブル・ドット・マーカー(アワーマーカーはゴールドの球体で、ミニッツスケールには夜光マーカーが配置)と夜行のプロペラ針を採用。 6時位置に「MSO」のモノグラムがプリント。

スクリーンショット 2024-07-14 1.14.38

 

③コレクターのロニ・マドヴァニ氏のために作られた ブレゲダイアルの5004。パッと見は普通のアラビックダイアルに見えますが、実はブレゲ数字インデックスになっています。ストップ針がホワイトなのも印象的。

スクリーンショット 2024-07-14 1.17.58

 

④ こちらの2本は非常に珍しい Pulsation Dial (脈拍測定用の目盛り付) の5004 です。RGケースのブラック文字盤 (12 がブレゲ数字) と PTケースのシルバー文字盤 (12がアラビア数字) の2種類確認されている。

スクリーンショット 2024-07-14 1.46.00

 

⑤バゲットダイア・インデックスの5004P。こちらも日本だけで数本確認されていますが、元々このダイアルだった個体と、交換ダイアルのものとがあるようですね。いずれにしてもかなり美しいデザインで、個人的には好みの仕様。2022年にクリスティーズに出た個体は保証書を見ると「7 BAGUETTE DIAS」とあり、オリジナルでバゲットと思われます。

スクリーンショット 2024-07-14 23.51.01 2

スクリーンショット 2024-07-15 0.57.43

 

 

⑥こちらも非常に珍しい 宝石インデックスのセット。ルビーRG/ ブルーサファイアWG/ イエローサファイアYG/ブラックダイアP のセットだったとか。このルビーの個体は 10年ほど前に日本にありましたが、その後 クリスティーズに出てましたね。

スクリーンショット 2024-07-14 2.03.28スクリーンショット 2024-07-15 0.25.21

 

⑦レアカラーのアラビア文字盤。デザインはアラビックのままですが カラーが特注というタイプですね。RGケースにブラックとかもたくさん存在しました。

スクリーンショット 2024-07-14 23.28.55

 

 

⑧白文字盤 (正確にはシルバーですが) のダイアモンドインデックスは実は非常にレアで、オークションでもこれが唯一の個体だったかもしれません。ギャランティにも明記されており、これはオリジナルですね。

スクリーンショット 2024-07-19 1.20.08

 

⑨ 5004P Red2 ダイアルと呼ばれる特注品 (5004P-045 )。インデックスの2と ストップ針の片方が赤仕様。もちろんユニークピース。ケースはプラチナ。

スクリーンショット 2024-07-22 23.45.40

Keywords:
Patek Philippe