2020.07.24

After Geneva(PATEK, AP, ROLEX)

COVID-19 騒動のなか、初めてのオークション・ウィークが終了。リザルトからいくつか見えてきた大きな動きがあったので、総括を。

まずヴィンテージ・ロレックスに関しては二極化が明確に。アイコニックでコンディションの良いものには資金が集中。今回では、具体的にいうと 金無垢ポールニューマン と 6263パンダでした。最終日のクリスティーズでも  6239 YG シャンパンPNが 663K CHF(=邦貨7,560万円)と言う素晴らしい結果。少し前までシャンパンの相場は350-400Kであった事を考えたらこれは160%を超える高騰でした。同じく6241 YG 黒PN=JPS も1ミリオンを超え。つまり アイコンとも呼べるモデルの良い個体に関しては、ディーラー達がこの金額を出してもまだ伸びると判断している証左ともいえるでしょう。ただしパンダであってもクリスティーズの2本は文字盤のコンディションが悪かったり、ケースや針が交換されていて 安い価格(それでも330-350Kでしたが)に終わりました。今や 実力以上に過大評価される事は少なくなってきており、行き過ぎたヴィンテージバブルはひとまず落ち着いたと見て良いでしょう。ただしデイトナの人気そのものは衰えず、と言うところでしょうか。

 

スクリーンショット 2020-07-21 18.54.02ROLEX 6239 18K PN: 663,000CHF(=邦貨 7,560万円)紙箱付でコンディションやオリジナリティがしっかりしていた金無垢のPNですが、663K CHF という非常に高い評価に。今後はモデルだけでなく、コンディションやオリジナリティが いっそう吟味されるフェーズに入ってくると思われます。

 

スクリーンショット 2020-07-24 23.12.17ROLEX 6241 PN JPS:1,040,000 CHF(=邦貨 1億1,940万円)こちらもそのオリジナリティが評価され、JPS史上最高額をマーク。レモンポールには及ばなかったものの、ヴィンテージロレックス のひとつの象徴としての印象を決定づけました。

 

新しい「モダン・スポーツ」というトレンド

そして新しいトレンドとしては「ニューモダン・スポーツ」ですね。具体的に言うならPATEKのノーチラス、アクアノート。APのロイヤルオーク(主にパーペチュアルとエクストラシン)、ヴァシェロンの一部のモデルあたり。ここは数年前までは せいぜい定価より少し高いマーケット価格で動いていた時計たちです。具体的に言えば パテは 初代ノーチラス・ジャンボ 3700のWGやPTのレアモデル、そして現行ノーチラス 5711 と アクアノートの派生モデルと そのダブルネームや限定モデル。APはステンやセラミック、ゴールドを中心としたパーペチュアルとその限定モデル。もちろんこれらの時計は歴史的にも人気も実力もあった訳ですが、この辺りが従来では考えられないスピード感で値上がりを起こしています。起爆剤となったのは近年の40周年ノーチラス5976/1G  の高騰でした。たった2-3年ほど前に発売されたモデルが 20万ドル超の価格上昇を見せたこの現象は、世界のディーラーやコレクターに与えたインパクトは絶大だった事でしょう。これらの時計は製造年が新しいためコンディションも良好、 真贋に関するダウトも皆無、それゆえ どんなお店でも安心して買い取ってくれるという「換金流動性の高さ」という安心感も大きなプラス要因となり、投資資金が集中しました。

 

スクリーンショット 2020-07-21 21.45.04PATEK  5976/1G:487,500CHF(=邦貨 5,577万円) 2017年に1,300本限定とはいえ 定価 $96,390 で販売された時計が 僅か3年で $500,000 になったと聞けば 誰でもノーチラスを買いたくなるもの。ノーマルのノーチラスにまで、その影響が波及するのは 火を見るより明らかでした。しかしながらこの487K CHFという価格で本当に店頭で売れるのか、という疑問は若干 残ります。数が1,300本もある訳ですし、未だそのほとんどがフルセットのコンディション良好(または未使用)だと思われますので、300-350K 程度へと価格調整はあるかもしれません。

 

スクリーンショット 2020-07-23 21.41.21AUDEMARS PIGUET 26606ST:2019年に香港市場に 50本限定で販売されたステンレスのグリーン文字盤のパーペチュアル。2018年当時のListPriceは 邦貨換算で780万円くらいでしたが、僅か2年で3倍の181,250CHF(=邦貨 2,100万円)で落札。APのロイヤルオーク パーペチュアルに関しては生産数が非常に少ないためノーマルのステンレスやセラミックモデルも今後このプレミア状態が続くと推測されます。APのパーペチュアルが少し面白いのは、ノーマルモデルであってもセラミックは直営ブティック限定で入荷数は極小、その一方で日本限定モデルの販売はメインはYOSHIDAでの販売、など その辺りの独自の事情が興味深いですね。

 

スクリーンショット 2020-07-24 15.04.17AUDEMARS PIGUET 152070R:2020年に日本限定で30本生産されたエクストラシンのRGモデル。国内定価は704万円であったが、今回のクリスティーズで150万香港ドル(=邦貨 2,060万円)で落札。今年デリバリしたばかりのモデルが定価の300%弱をマークした事になります。

 

「パーペチュアル・スポーツ」という破壊力

あと、APのロイヤルオーク パーペチュアルが強いのは「パーペチュアル(=永久カレンダー) 搭載でありながら、スポーツモデルでもある」という事実が大きいでしょうね。例えばパテックのパーペチュアルはほとんどがドレス的なクラシックなデザインのモデルです。ですが今は 「スポーツモデルだけが売れる」時代。その中で付加価値を付けれるパーペチュアルが  “スポーツモデルに搭載されている” という事実は非常に大きいのではないでしょうか。だからパテックは慌てて永久カレンダー搭載の ノーチラス5740 を出したのでしょう。5740は勿論、大成功しましたが、まだ1モデルでバリエーションもない状態。かたやAPの ロイヤルオーク パーペチュアルにはケースはステンもチタンもセラミックもWG/RGもある、そして限定モデルも文字盤を変えてどんどん出す。ここ数年のオーデマの大きな躍進の秘密がこの「パーペチュアル・スポーツ」にあるのは間違いないと考えます。ただしロイヤルオーク は3針エクストラシン、パーペチュアルにだけ人気が集中しており、その他大多数は定価割れモデルも多く、この辺りが今後の課題かもしれません。ノーチラスやアクアノートはほぼ全体的にプレミアとなっていますので。

 

スクリーンショット 2020-07-24 23.53.13AUDEMARS PIGUET 26579CE.OO.1225CE.01:2017年に発売したセラミックのパーペチュアル(当時の国内定価は930万円)2019年のPHILLIPSのオークションで既に 131,250CHF(=邦貨 1,500万円)で落札。デリバリ1年で150%という結果。現在でも150K 前後で動いています。このモデルの白をバージルがカスタムして愛用したことも話題に。

 

現行ロレックス特有 の事情

こうなってくると微妙なのがROLEXの現行モデルのポジションです。定価 200万円以下のレンジに限って話すならROLEXの強さ、プレミア度合いは無敵と言っていいでしょう。デイトナは勿論、スポーツモデルのほとんどのモデルが、あれだけの数を供給しても(=パテックやAPより遥かに多い生産数)プレミアが付いているです訳ですから。しかし定価が500万円以上の現行モデルとなるとどうでしょうか。その辺りのプライスレンジになってくるとやはり永久カレンダーであるとか、時計の機構的な付加価値が求められてくる傾向があります。パテックやAP が永久カレンダーやトゥールビヨンに磨きをかけている間、ROLEXは良くも悪くもそこから目を背けてひたすらシンプルな時計を作り続けました。というよりもハッキリ言えば そんな付加価値はなくてもロレックスの時計が売れ続けたのです。そういう事情もあって、 今や 誰もROLEXに永久カレンダーなど求めてないとも言えるでしょう(ROLEX は自動巻をパーペチュアルと勝手に呼んでいるので少し混乱を生じますが)。そうなると ROLEXは 高価格のスポーツモデルを作るにはケース素材をYGやプラチナにしたり宝石をセットするしかない訳です。そんな事情もあって ROLEXの中で、マーケットの価格的に昨今、注目されつつあるのが宝飾系のスポーツモデルです。具体的には昨今大きく高騰したデイトナのレインボーや、GMTのSARU、と呼ばれるモデルですね。これらのモデルは通称「ワンショット物」とも言われていて、ある期間に一定個数を製造したら終了と言われてます。定価も高いので高騰した時の利幅も大きく、投資資金が入ってきやすい事情もあります。

 

スクリーンショット 2020-07-24 13.06.00ROLEX  116595RBOW :2018年にワンショットだけ生産されたと言われてる通称レインボー。ケースはRG。北米でのListPriceは 96,900usd (=邦貨1,030万円)でしたが、デリバリーされてすぐの2018年 11月のPHILLIPS の時点で243,750CHF(=邦貨2,800万円)をマーク。ワンショット物の強さを証明しました。現在でも300K 前後の価格で動いている模様。

 

スクリーンショット 2020-07-24 0.36.19ROLEX GMT 116759 SARU:  125,000CHF(=邦貨1,443万円)かつては国内定価927万円で、マーケットでは定価割れだったこのモデル。ですがこの流れを受けてやはりジワジワと上昇して来ましたね。このSARU GMTに関してはRGの126755 が最も数が少なく貴重なのですが、比較的数が存在すると言われるWGケースでもここまで上がってきましたね。

 

スクリーンショット 2020-07-24 2.05.15ROLEX  SUBMARINER 116659 SABR:2018年のバーゼルで密かに公開された WGにサファイアベゼルのレアモデル。スイスでの定価は 85,200CHFだったようですが、非常に生産数が少なく日本でも買えた人は僅かだったのではないでしょうか。ベゼルの0-15分の部分だけ薄い色のサファイアをセットしてるのが特徴。2019に一度だけPHILLIPSに出てきた時は 93,750CHF と 100万円ほどの価格上昇でしたが、現在では高騰し120,000CHF に近づきつつあります。こういった宝飾系のモデルは、見た目も派手でつける人も限られますが、やはりROLEXとしては個数が極端に少ないので、結局のところ最後は値上がりすると言う感じでしょうね。

 

このように、今後はヴィンテージROLEXはトップレベルのアートピース、現行系はパテックとAPのモダンスポーツ系。そしてROLEXのレアモデルなどを中心に高値が続くと思われます。全体的にはどの国も経済対策による紙幣量の増加で 現物への投資が起きており、時計やアートが好調なようで、この傾向はもう少し続くのかもしれませんね。

 

 

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Patek Philippe
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