2021.02.16

「MAISON」渥美創太と「Sumally」山本憲資が語る、コロナ禍のフードシーン <後編>


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“パリジャンが愛する料理人として知られ、2019年に自身のレストラン「MAISON(メゾン)」をパリにオープンした渥美創太と、独立前から彼の料理に心酔していたという「Sumally(サマリー)」代表 山本憲資。経営者という共通項をもつふたりが語る、現在進行形のwithコロナのフードシーンとこれから、そして変化の捉え方とは。後編ではTRUNK(HOUSE)で渥美が開催した1日1組のシークレットレストランのメニューも一部公開する。

Photo_Ko Tsuchiya Edit&Text _Naoko Monzen Special Thanks_ TRUNK(HOUSE)

「MAISON」渥美創太と「Sumally」山本憲資が語る、コロナ禍のフードシーン <前編>

変化をポジティブに捉えるということ  

―コロナ禍のいま現在、そして近未来に向けて考えていらっしゃることを聞かせてください。

渥美 最初は不安感が街全体にありましたが、パリの人たちってあんまり深く悩まないんです(笑)。「なんとかなるさ」「大丈夫だろう」とポジティブ。メンタリティが日本人と違うんでしょうね。

山本 閉店しまうレストランもそれなりにあるのでしょうか?

渥美 自分の周りではあまり聞かないですね。現在、すべての飲食店が補償を受けながら営業停止となっていますが、再開のめどは立っていません。いまのところ、早くとも4月中旬以降になるのではないかといわれています。これからの「MAISON」の予定は……、営業を再開してからでないと分からないですね。パリでテイクアウトをやっている店も多いですが、自分はガストロノミーの料理をテイクアウトにしてもあまり意味がないと思います。大量にゴミも出ますし。

山本 今年のこの後の動きに関しては創太さんがおっしゃったように分からない部分がありますが、もっと長いタームで考えると、レストランの在り方は絶対に変わってきますよね。

渥美  そうですね。

山本 世界のどこどこに「おいしいレストランがある」「すごいシェフがいる」って、これまで時間をかけて徐々に伝播されていった情報が、一瞬で世界中に共有されるようになりました。それを受けて海外へ食事に行くというフーディーも珍しくなくなりましたが、そういうトレンドにはコロナ禍が水を差す形になっているのかもしれない。

渥美 僕はこの変化をポジティブに捉えていますね。まず、こんなに休むのは初めてなので、子供とゆっくり過ごせるのが嬉しいです(笑)。

山本 僕も、まず“変化そのものをポジティブに捉える”ことはとても大事だと思っています。変わることっておもしろいだろうと。変わり続けると新しいことが起こるので、平穏に落ち着くよりも楽しい。もちろんコロナそのものを肯定することはできませんが、これをきっかけに起こる変化自体はポジティブに捉えたいですね。

僕は新卒で大企業に就職して、どちらかといえばコンサバなほうだったのですが、雑誌編集者に転身してからいろんな人に接する機会が増えて、「自由な人たちと生きていくのは楽しいな」と。そのあたりから安定よりも“変化とチャレンジが楽しい”という考え方になりました。独立して会社を作った理由には、雑誌というメディアが右肩下がりでなかなか未来が見えづらかったというところもありますが。

渥美 今回帰国して、日本の料理人仲間からも雑誌の話がでました。雑誌の存在感は本当に変わりましたよね。以前なら「雑誌を見てきました」というお客さんが多かったのに、いまはほとんどSNSを含む口コミ。自分が信じた誰かがおすすめしていたレストランに行くという。雑誌ならではの魅力もあるんですけどね。

山本 まさに昨日フードライターの知人と「そこにも変化が必要だよね」という話をしました。日本の“予約が取れない”小規模のお店って、もはや人を呼ぶために雑誌に出る必要がないわけです。その状況でそういったお店の特集をしたところで、すでに店のニーズにも読者のニーズにも合っていないわけで。そこはメディアのほうが変わる必要がありますね。

そうであれば、シェフの人となりにフォーカスするとか、単なる店紹介ではないことをやっていくべきなのに、ただ「雑誌が売れない」と嘆くのは違うかなと。従来のやり方が通用しなくなったのであれば、どうすればいいのかを考えなければいけない。

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― 渥美さんが冒頭でフーディやインスタグラマーに触れていらっしゃいましたが、レストランに集まる人も変わってくるということでしょうか。

渥美 「どうやって知るか」という入口の変化や楽しみ方の変化はあるかもしれませんが、人と人の話なので根本は大して変わらないと思います。人としてお互いがちゃんとしていれば。

僕、友達が多いんです(笑)。パリで自分の店が経営できるのも、今回ここでシークレットレストランが開催できるのも、友達がいるからですね。国籍は関係なく、これまでいろいろな思いや記憶を共有してきた仲間たちが、「何かやりたいな」「こうしたいな」っていう時に助けてくれるんですよね。

■生産者と共に共創する料理

山本  これからもパリにずっといらっしゃる予定ですか?

渥美  もちろん。店も家もありますし、僕は日本よりパリのほうが住みやすいですね。

山本 フレンチをやるならやはりパリのほうがいいですよね。和食なら日本でやるのがいちばんなのと同じ話で。僕はフレンチだと、日本人シェフがパリで現地の食材でつくるものがいちばん好みです。フランス人シェフの料理よりも繊細で軽やかで。

渥美 日本とパリのフレンチは、少し違いますね。パリのなかでも僕の好きなフレンチの話ですが。パリでは、ワインと生産者がすごく一体化されていて、テーブルを一緒に創っていくような感覚。フランスの土地をしっかり理解している造り手がいて、自分たちは料理にワインを合わせるときにその人たちの話に基づいて決めていきます。日本だと、フランス料理の型があって、そこにワインをあてはめていくような感じになりますよね。

例えば日本料理をされている方だったら、豊洲で食材と料理人の間で同じようなことが行われていると思います。今回のシークレットレストランでは食材をすべて友達に依頼しました。北海道、広島、千葉、佐賀……、日本各地の信頼する友達から集めたものです。日本の食材であることに加えて、今回は「TRUNK(HOUSE)」の雰囲気や日本人の作家の器にも合わせて料理を和の方向に寄せています。

maison_trunk_20210204_15今回のシークレットレストランでは、静岡で作陶する二階堂明弘(写真手前)や伊万里の文祥窯など、日本の陶芸家の器を使用。写真には、アメリカの現代アートを代表するトム・サックスによる作品「Ryakubon2.0」(写真奥)も。この作品を使ったティーセレモニーは、「TRUNK(HOUSE)」の宿泊者のみが味わえるエクスクルーシブな体験だ。

山本 この後のお食事が楽しみです! 

ー渥美さんはいわゆるフーディーをどう思われますか?

渥美 本人が楽しいのであればまったく問題ないですね、いいと思いますよ。写真についても、きれいなものを見たら撮りたいと思うのは普通のことだと思いますし。

山本 フーディーのおかげで飲食店が価格を上げやすくなったという側面もあるでしょうし、ビジネス的な視点からみればありがたい存在なのだろうなと。店ごとに対応は違うと思いますが、もちろんやみくもに否定するものではないですし、たくさん食べてくれて、宣伝もしてくれて、いいお客さんですよね。ブランドロゴを見せるのと同様、「この店で食べた」というのが周囲に対するステイタスになる時代がきていますよね。

渥美 時代の変化をポジティブに捉えながら、ずっと付き合っている生産者や造り手と共に歩いていけたらと思っています。野菜も肉も魚もワインも、どの生産者さんも付き合いが長くて10年くらい。もっともっと彼らとコミュニケーションをとって、どれだけ最高のものを形にできるか。それしか考えていない。「本当にすごいものつくるなあ」って彼らが感動させてくれたので、そこを大事にしていきたいですね。

山本 (ぼそっと)いいなあ。

―いましみじみ「いいなあ」って呟きましたね(笑)。渥美さん、山本さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。この後、山本さんはぜひゆっくりお料理を楽しんでください。

渥美 料理の準備をしてきます(笑)。

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14_20210116_RoC_081_0渥美は「MAISON」からスタッフを連れて来日。「TRUNK(HOUSE)」1階のダイニングエリアは、キッチンとゲストのテーブルが完全に地続き。このうえないライブ感が楽しめるオープンキッチンだ。

■シークレットレストランのメニューを特別公開

最後に、シークレットレストランのメニューを山本のセルフフォトで公開。「TRUNK(HOUSE)」を舞台に繰り広げられた数日限りの1日1組のシークレットレストランは、メニューのないシェフズテーブル。その日の食材に合わせたその1日限りのスペシャルな料理が登場した。デセールまで全11品ほどが登場したなか、山本が特に惹かれたのは下記の3皿。

千葉・柏の「吉野ハーブファーム」のラディッシュ、宮崎産のボラの卵で作った自家製からすみ

maison_trunk_20210204_01「ラディッシュの歯ごたえと、からすみのソースのようなねっとり感、美味しかったです」

千葉・柏の「吉野ハーブファーム」の野菜を温野菜に 炭火焼きしたフグの白子、ケッパー、発酵麹のソース ブールブラン仕立て

maison_trunk_20210204_02「野菜の甘味とフグの濃厚な旨味、 そして麹のソースの抜群の相性にやられました」

ポトフをイメージした広島産猪と菊芋のスープ

maison_trunk_20210204_03「和のエッセンスが入ったポトフを猪で。味の落としどころが実に愉しい、この日にふさわしいメニューだったと思います」

僕は火入れと塩加減で勝負している素材重視の料理がわりと好きなのですが、創太さんはそこをちょいと超えてくるんですよ。ただ、これ以上はやりすぎという直前で寸止めをして。凝っていながらも、最終的にはシンプルに落ち着かせているという素晴らしいバランスです。『MAISON』は名前の通り、料理はもちろんのこと、サービス、空間、器など、どれをとってもおうちにいるような居心地のUXが提供されているお店だと思います。

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PROFILE

あつみ・そうた(「MAISON」オーナーシェフ)

1986年千葉県生まれ。プロのスノーボーダーを目指すものの、ケガで断念。辻調理師専門学校のフランス・リヨン校在籍時に三つ星「メゾン・トロワグロ」で研修。その後、フランスで「ステラマリス」「ラボラトワール・ドゥ・ジョエル・ロブション」といった名店を経て26歳のときに「ヴィヴァン・ターブル」シェフに就任。2014年、老舗「クラウン・バー」のリニューアルに伴いシェフに抜擢され、2015年にフランスのレストランガイド「ル・フーディング」の最優秀ビストロ賞を受賞。2019年に自身のレストラン「MAISON」をオープン。

やまもと・けんすけ(「Sumally」ファウンダー&CEO

1981年兵庫県神戸市生まれ。一橋大学でゲーム理論を専攻したのち、電通、『GQ JAPAN』の編集者を経て、2010年に株式会社「Sumally」を設立。主な事業にスマートフォンで管理する収納サービス「サマリーポケット」がある。食のほか、アート、音楽、舞台と興味の幅は多岐に渡る。昨年、東京から軽井沢に拠点を移し、築50年の一軒家をフルリノベーション。自然のなかでスマート化を目指す暮らしも話題に。

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Restaurants