2021.08.06

マメ クロゴウチの出発点と10年間、展覧会「10Mame Kurogouchi」を辿る

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「現代社会における戦闘服」というコンセプトを掲げ、2010年にスタートした「Mame Kurogouchi(マメ クロゴウチ)」。彼女の10年の足跡を辿る、初の単独展覧会「10Mame Kurogouchi」が長野県立美術館で開催中だ。2011年春夏コレクションから2020年秋冬コレクションに至るまで、アーカイブやデザインアプローチについて10のキーワードでナビゲートする同展を、デザイナー黒河内真衣子の言葉とともに辿ってみよう。

象徴的な10のキーワードが生まれた背景

善光寺から程近い、長野県立美術館(旧信濃美術館)は20214月にリニューアルオープン。同館の制服を黒河内がデザインすることがきっかけとなり、ブランドが10周年を迎え、構想してきた展覧会の開催が実現したという。自然とも同居する美術館には3つの展示室があり、「10Mame Kurogouchi」は展示室3のスペースを使って、21_21 DESIGN SIGHTの企画展やFashion in Japan 1945-2020などを手掛けてきた建築家の中原崇志とともに構成された。

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ブランドを紐解くキーワードは「ノート」「曲線」「色」「クラフト」「私小説」「テクスチャー」「旅」など。「展覧会は書籍(10 Mame Kurogouchi)を手掛けた伊藤総研さんにインタビューをしてもらい、思いつく言葉を一言ずつ絞り出していくという作業からスタートしました。自分たちを表現する言葉を絞り出すのはなかなか大変で、自分と向き合うようなカウンセリングのような不思議な時間でした。その後に偏りすぎず、私たちの全てを網羅できる言葉を取捨選択し、それからコレクションをリンクさせていく作業はとても楽しくて。同時に、私がブランドを通じて作り続けてきたものって、変わらないんだということに自分でも驚いたんです。年月を重ねる中で”どう伝えるか”の手段が変わっただけだったんだ、と気づきました」。

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例えば「長野」のセクションでは、ブランドがアイコンとして初期から発表を続けているPVC素材のバッグが氷柱に見立てて展示されている他、デビューコレクション(2011年春夏)と、2014年秋冬、2020年秋冬の降り積もる雪に魅了されたルックを並べ、故郷長野の雄大な自然から得たインスピレーションとクリエーションの原点を表現。「クラフト」では、日本各地の職人たちによる道具や、それらをまとめたシャルロット・ペリアンによる展覧会書籍、黒河内家に伝わる家紋入りの九谷焼大皿など、着想源となったクラフトと実際に製作されたコレクションを隣り合わせに置き、伝統技法からの学びと最新技術による生み出されるまでの時間を想起させる。「夢」のセクションは、当時展示会に訪れた人にとっては懐かしさのある風景だ。2013年秋冬コレクション「Your Memory」の展示会会場に展示されていたヴィンテージ写真と、黒河内が想像する人物の架空の物語やデザインアイデアを書き留めたピンクの付箋で作られたプロジェクトボードが当時とそのままに忠実に再現されている。

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10年間のノートに綴られた美意識の根源の在処

そうしたキーワードのなかでも大きな存在感を放つのが、「ノート」のセクションだろう。展示室の中央に置かれた大きなガラスケースを覗くと、見開きのノートが並んでいる。これはブランド創立以前から1シーズンに1冊直筆で描き続けているノートから360ページを厳選し、初公開したもの。夢の記述やメモ、旅先のデッサンや記事、日常の他愛のない出来事を綴った日記まで、想像の源泉となる自由な発想と繊細な視点を垣間見ることができる。

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今改めて、自分の美意識の根源にあるのは、幼少期に過ごした時間だということを実感していて。上京するまでは田舎の生活がつまらなくて、都会に憧れてこの街を出たけれど、大人になって『綺麗』や『面白い』と感じるセンサーは、結局子どもの頃に培わったものがベースになっていたんです。例えば、ファーストシーズンからあるPVCのシリーズは、子どもの時に氷柱や氷の上を滑った記憶から溶けない氷を表現したものでしたし、そうした幼い頃に見出した美しさを服へと還元し、それらが長野に還るということは、いつかやりたいと考えていたことでしたし、(本展は)特にこの地に住む若い方に観てもらえたら嬉しいと思っていて。デザイナー志望の方だけではなくどんな職業の方にも、『みんなの日常の中にはすごく美しいものがあるんだよ』という”気づき”に繋がれば嬉しいなと思います」。

俯瞰的にクリエイションを眺められる本展を補うように、7月末には伊藤総研が編集を担当した作品集「10 Mame Kurogouchi」が青幻舎から刊行。コレクションやその舞台裏、写真、エッセイ、小説などが集約された本書は「読む展覧会」として展覧会の展示内容と相互補完し合う。10年の足跡とその出発点、本書を片手にもう一度長野の地に足を運んでみたい。

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■10 Mame Kurogouchi 
会期:2021年6月19日(土)~8月15日(日)
長野立美術館 公式サイト
住所:〒380-0801 長野市箱清水1-4-4(善光寺東隣)

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