Pulsar P2/P3/P4
ハミルトン社が設立した新しい会社「パルサー・タイム・コンピュータ社」から世界初のデジタルウォッチが発売されたのが 1972年。それは現在主流となっているLCD(液晶ディスプレイ)ではなく LED(発光ダイオード)を使った全く新しい時計で、当時としては衝撃的な出来事だったようですね。その最初のモデルPulsar P1 は2100ドルと高価( 当時のゴールドのROLEXより150ドルも高かった)でしたが、 Tiffany ブティックで販売するなどのプロモーションも成功し、生産した400個はすぐに完売。
Pulsar P1:初代モデル。18Kケース&ブレスの豪華仕様とはいえ 2,100ドルと 当時としては非常に高価。
そしてそのP1発売の直後に 発売されたのが、Pulsarとしての 初の量産モデルのPulsar P2 です。当時キース・リチャーズやエルトン・ジョン、フォード元米国大統領も愛用したことでも話題となりました。この初期の2つのモデル(P1/P2)の段階では ケースやLED部分は 近未来的なデザインをコンセプトとしながらも、ブレスレットに関しては ROLEXによく似た クラシックなデザインだったのが非常に興味深いですね。この未来とクラシックのバランス感 が 人気の秘訣だったのでしょう。価格は当時のサブマリーナーより10ドル高い395ドルという価格。ステンレスの他に金メッキモデルや 限定の金無垢モデルも存在。
Pulsar P2:1973年発売 。LED表示エリアは 人工ルビーレッド・クリスタル製で その奥に赤いLEDで時刻を表示。ケースは近未来的なデザインでありながら、ブレスはROLEXにも似たクラシックなステンレス製。
Pulsar P2:ケースバックのHRとMINのくぼみにマグネットを当てて時刻を調整。
Pulsar P2:ブレスのクラスプ部分に「P」のロゴが。
Pulsar P2:ブレスの裏側にマグネットが収納できる。付属の小さな封筒の中にブラックの予備のマグネット。
Pulsar P2:今となっては貴重なシルバーの紙箱。
Pulsar P2:シリコン・シーリングが外された初期のP2モジュールのクローズアップ
また当時のパルサーの時計は、時刻が表示されてない時でも LED表示のディスプレイの奥にうっすらと「中の基盤」が見えるのが魅力的。
映画「007 Live And Let Die」でもジェームス ボンド の腕にP2が登場し、当時話題に。やはりケースが近未来的デザインでもブレスが古典的なため、違和感なくフィットしているのがわかります。
そして次のモデルの P3 以降はクラシックなブレスレットを捨て、ブレス部分までもフューチャーリスティックなデザインに仕上げてきました。僕は 時計単体としてみれば P3/P4 の方がプロダクトデザインとして 上だと思いますが、結局ここまで未来的なブレスレットにしてしまうと 腕に巻いた時のフィット感も悪く 見た目にも違和感があり ファッションに似合うのが難しいという側面があったと思います。「実際に使用するならやはりP2に限る」という意見も多かったようですね。ただしパルサーと言えば…このP3 のデザインを思い浮かべる人も多いでしょう。そのくらい衝撃的というか腕時計の概念を変えるデザインでした。
Pulsar P3:1973年後期に発売されたP3。ブレス部分までもが 映画に出てきそうな近未来的な形状で、独特のケースとの一体感もあり 時計単体で見れば非常に素晴らしいデザイン。Pusarロゴがケース右下からLEDディスプレイ上のプリントに変更。ブレスはJ.B.Champion社製。このボックスは後期型(初期はブルー箱)
Pulsar P3:このように並ぶと実に壮観。サイドから見るとその近未来的なデザインコンセプトがよくわかる。
Pulsar P3:日本での広告。「(普通の時計と違って)動く部品はありません」というキャッチコピーが秀逸。日本での価格はステンで14万円、金張りで19万円と記載あり。
Pulsar P4:1975年発売 295ドル。更に進化し時刻表示のボタンが中央の上下に移動。デザイン的には完成の域に達したが、この直後には 日本製の安価で故障しないLCDのデジタルウォッチが登場し市場を席巻。パルサーは1976-77年の時点で メカニズム的には時代遅れ(=故障が多く 高価すぎる)になりつつあった。
Pulsar P4:ブレスはP3 を更に洗練させたフューチャーモダンで、パルサー史上 最も完成度のデザインとも言える。しかしながらブレスが P3 より更に細くなり、華奢な女性的なフォルムとなってしまった。
Pulsar P4:手首を素早く動かすだけでディスプレイを作動させることができるオートコマンド機能を初めて搭載。
Pulsar P4:イエローゴールドモデルや金メッキモデルなど多数存在。
Pulsar P3 / P4 :本当にキューブリックの「2001年宇宙の旅」という感じのイメージですね。このブレスレットはある種の画期的なデザインだったと思いますが、ちょっと男性の腕には不向きだったかもですね。P4はP3より更にブレスが細くなるイメージです。
そして Pulsar のもう1つの魅力は Tiffany モデルの存在です。当時パルサーは、金無垢ケースを提供する数少ないデジタル時計メーカーの先駆けであり、ティファニーのショップでさえ、レッド・クリスタルにロゴをプリントしたパルサーをオーダーしていました。特にP2はかなりの数をTiffanyで販売したとも言われています。
Pulsar P2 Tiffany:P2はケースにPulsarロゴがあるので Tiffanyとダブルのロゴになる。
Pulsar P2 Tiffany
Pulsar P3 Tiffany:ルビークリスタルにTiffanyロゴがプリントされるので Pulsarのプリントは消失する。
この後、Pulsar はP4 Classic や P4 BIG TIME などのモデルをリリースするが LCD時計の登場で、売上が急速に悪化。親会社のハミルトンが 70年代末にパルサーの商標をセイコーに売却したことで”ハミルトンパルサー〟の歴史は幕を閉じた。実際のところ Pulsar が巻き起こした熱狂は1973-76年くらいのわずか 5年の出来事でしたが、いま振り返っても 非常にユニークな プロダクトであった事は間違いないと思います。
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