2017.08.25

P.M.Kenインタビュー。合成写真の可能性と、その制作の舞台裏。

デジタルフォト黎明期よりPhotoshopを駆使した合成写真にいち早く取り組んできたフォトグラファー、P.M.Ken。テクノロジーの進化とともに写真を取り巻く環境が刻々と変化していくなか、彼はいま何を思い、どのような姿勢で作品制作に取り組んでいるのか。最新作であるPenfieldのビジュアル制作の舞台裏を交えつつ、彼のクリエイションの源を探った。

Photo_Masataka Nakada(STUH) | Edit&Text_Issey Enomoto

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P.M.Ken

1990年、東京造形大学卒業。同年、フリーのフォトグラファーとして独立。1996年、初個展開催。この頃よりMacintoshとPhotoshopを駆使したデジタルによる合成写真に取り組み始める。以来、その独特のスキルとアイデアで、写真の枠を越えた数多くのクリエイティブに携わる。2010年、東京の街と海外の街のシティスケープを合成してまったく新しい風景写真として再生した作品群『crosspoint』を発表し、国内外で大きな話題を呼ぶ。

http://www.pmken.com

Iceberg Reflection

Winter snowy mountains and blue sky. Caucasus Mountains, Georgia, ski resort Gudauri.

以上2点はP.M.Kenが手がけたPenfield 2017秋冬の最新ビジュアル。「自然」と「都市」が氏の技術とセンスによって巧みに掛け合わされ、「現実」と「虚構」が渾然一体となった不思議な世界観が表現されている。

——Penfieldのビジュアルを手掛けることになったきっかけを教えていただけますか。

「Penfieldのリブランディングに携わる梶原(由景)さんから、『新生Penfieldのコンセプトである街と自然の融合を表現したビジュアルをつくってもらいたい』と相談を受けたのがきっかけです。もちろん、二つ返事で快諾しました。それは僕にしかできないじゃないですか、と(笑)」

——街と自然を融合したビジュアルをつくるにあたって、どのようなことを考えましたか?

「自分自身、この10年ほど登山やキャンプにハマっていて、日頃から自然に親しんできましたし、山用に買ったウェアやギアを街で使うことも多々あったので、街と自然を融合するということ自体、自分のなかに違和感なくすうっと入ってきました」

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Providence Canyon in Southwest Georgia, USA.

Colorado, USA.

Hiker walks on train in Himalayas

Rockclimber in Aladaglar National Park, Turkey

以上5点はPenfieldのリブランディングにあわせて制作された2017春夏のビジュアル。

——異なるランドスケープを組み合わせてひとつの世界観をつくるという点では、P.M.Kenさんの代表作であるcrosspointシリーズも同じですが、Penfieldのビジュアル制作ではどのようなことを意識しましたか?

「同じランドスケープでも、crosspointでは基本的に人工物のみを題材にしています。一方、Penfieldのビジュアルは、人工物と自然を組み合わせて制作しています。その点は似て非なるものですね。そのあたりは自分が普段から山に行くからわかることかもしれませんが、みんなが自然だと思っているものって、実は人工的につくられたものも少なくないんですよ。たとえば田園風景。田んぼはまったくの自然ではなく、自然を元にして人間の手でつくりあげた人工物です。登山道も然りで、山自体は自然のものですが、登山道は人間がつくった人工物です。Penfieldのビジュアルでは、純然たる自然がつくりだした造形と、その対極にある高度な文明を掛け合わせて、1枚のビジュアルに仕上げています。そのように、両極端なアイコン同士をかけ合わせることによる違和感を生み出そうというのが、Penfieldのビジュアル制作における狙いでした」

※以下、P.M.Kenの代表作『crosspoint』より

crosspoint_19Times Square, 109 (2010) [ニューヨーク、東京] (C) P.M.Ken

crosspoint_50La Tour Eiffel,Tokyo Tower(2011) [パリ、東京]  (C) P.M.Ken

crosspoint_109Bowery/NYC,Ebisu/Tokyo(2014)[ニューヨーク、東京] (C) P.M.Ken

——また、Penfieldのビジュアルとcrosspointとの違いとして、モデルの有無が挙げられます。Penfieldのビジュアルにはモデルが起用されていますが、撮影はどのようにして行われるのですか?

「事前に完全に背景をつくりこんだうえで、スタジオでモデル撮影をおこないます。その時点で、どこにどういう立ち位置でモデルを入れるかは決まっているので、Macをスタジオに持ち込んで、撮影したモデルをその場で画面上にハメ込みながら撮影を行います」

——すべてが現場で完結する通常のファッション撮影とは、趣が大きく異なりますね。

「そうですね。パズルの最後の1ピースをハメ込む作業に近いかも。だるまに目を入れる感じというか(笑)」

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モデルカットの撮影現場にて。この時点で撮りたい絵はすでに決まっている。モデルにポーズの指示を出し、Macの画面上で実際に背景にハメ込みながら、撮影を進めていく。

——ところで、P.M.Kenとして活動を始めて20年以上経つわけですが、当時といまでは写真を取り巻く環境が大きく異なりますし、カメラやコンピュータといったテクノロジーも劇的に進化を遂げましたよね。それらはP.M.Kenのクリエイションにどのような影響を与えていますか?

「最初の頃はフィルムをスキャンして合成していました。デジカメを使い始めたのは1999年から。ニコンのD1が出た年です。テクノロジーの進化で言うと、デジタル一眼レフカメラの進化は当時と現在では雲泥の差ですよね。画素数は桁がひとつ増えましたし。コンピュータに関しても、処理速度が飛躍的に向上して、ストレスを感じることはなくなりました。ただ、Photoshopでの作業に関しては、スキル的には当時からあまり変わっていないと思います。そのあたりはテクノロジーの進化にあまり影響されないものであり、いわば職人技に近いかもしれません」

——croospointシリーズに関しては、続編を出す予定はあるのでしょうか?

「ライフワークとして、作品は創り続けています。またある程度まとまってきましたので、この年末か来年あたりに発表しようかと思っています」

Penfield Sportswear Inc.
https://penfield-jp.com