FASHION WEEK IN TBILISIーその魅力とは?藤原ヒロシが仕掛け人に聞く
ジョージアの首都ティビリシで行われているMercedes Benz Fashion Week Tbilisi。昨年の11月に続いてゲストとして招かれた藤原ヒロシとともに、5月のティビリシを訪れた。この数年でヨーロッパからのみならず、日本やアメリカからのバイヤーからも注目を集め始めているというティビリシのファッション・シーン。そのシーンを支え広めるべくMercedes Benz Fashion Week Tbilisiをプロデュースするソフィア・ツコニアに藤原ヒロシが話を聞いた。
Photo & Text : Shoichi Kajino
Sofia Tchkonia(以下ST):実は、私たちの前にも別のファッション・ウィークが行われていました。だけど、それは1シーズン限りで、クオリティ的にもそれほどいいものではなかったんです。そういうわけで私たちは2015年にMercedes Benz Fashion Week Tbilisiをスタートさせました。
藤原ヒロシ(以下HF):ソフィアさんはこれまでもずっとファッション・ビジネスを続けられていたのですか?
ST:私は現在パリを拠点にしていますが、以前は、経済的な支援を必要とする若手デザイナーのためにコンテストをオーガナイズしていました。それからフェスティバルを運営していて、ファッション・デザイナーだけに限らず、若手のフォトグラファーのエキシビションを企画していました。それで2015年に、ここティビリシでファッション・ウィークをスタートさせる決心をしたんです。たくさんの才能あるデザイナーが現れ始めていました。でも、彼らにはプラットフォームがなく、まさに今が始めるべき時と理解したんです。その数ヶ月前には、パリでVetementsがプレゼンテーションを行っていて、偶然にも同じタイミングだったんです。
HF:若いデザイナーはモチベーションが上がったでしょうね。
ST : その通りだと思います。今、多くの若手のデザイナーたちのもとには、パリから年に2回プレスとバイヤーが訪れます。今ではPRがいますが、以前は、そういったことはありえなく、彼らはどうやって仕事をすればいいのかさえ分かっていなかったんです。成功のためには何が必要かを知るためにも、インターナショナルに仕事をする人と会うことは重要なことではないでしょうか。それから、孤立していると思わないためにも、誰かがあなたの仕事を注目していると知ることは、とても大事なことでしょう。2015年当時、参加したデザイナーは10組だけでしたが、今では40組になりました。
HF:Mercedes Benz Fashion Week Tbilisiはインターナショナルに向けたものなのでしょうか? それとも国内に向けたものですか?
ST:もちろんインターナショナルなものであってほしいと思っています。ジョージアに大きなマーケットはないのですから。ジョージアという国は今ではとてもポピュラーになりつつあって、みんながこの国のものを買おうとやってきますが、ここには(国内を相手にする)バイヤーは少ないでしょう。
HF:このホテルと同じビルに「カオス」というセレクト・ショップを見つけました。こういったショップは他にもあるのですか?
ST:ちょうど今週、ワインの醸造所にオープンしたコンセプト・ストアがあって、それはここから遠くない所にあります。サウス地区唯一のショップで、様々なジョージアン・デザイナーの服を扱っています。
HF:このファッション・ウィークのメインはウィメンズですか?
ST : そうです。けど、この11月にメンズもスタートさせる予定です。本当は、ウィメンズとメンズを別々に開催したいのですが、デザイナー達にとって、別々のテイストを表現させるのは難しいようです。でも、いつかメンズのコレクションだけを別に行いたいとは思っています。以前は、メンズを作るデザイナーが多くはいなかったんです。
HF:例えばインターナショナルに活躍しているデザイナーがここでショーを行うチャンスはありますか?それとももうすでに行っているのでしょうか?
ST:インターナショナルに有名なデザイナーたちを招待する機会があればとは思っています。なぜって、ここではたくさんのデザイナーやブランドを知っているにも関わらず、直接手にとって購入することは難しいのですから。確かに人々はインターネットで新しいものをすべて見れるかもしれません。けどそれでも、この街に来ることに興味を持つデザイナーを招待したいと思っています。
HF:オフレコにすることなのかもしれませんが、どういうタイプのデザイナーを求めているのですか? 例えばそれはラグジュアリーブランドですか?
ST:いえ、むしろコム・デ・ギャルソンのようなブランドの方が驚かせられるでしょう。この街ではコム・デ・ギャルソンはずっと人気ですから。それから、ジョージアで最も有名なのは、ヨウジ・ヤマモトです。何年ものあいだ、本当に多くの人が彼の作る服に夢中なんです。グッチよりはヨウジ・ヤマモトやコム・デ・ギャルソンを好んでいるんです。この街にあるコンセプト・ショップでは彼らの服は、ベストセラーの一つでもあります。日本人が好むファッション、映画、建築、フードは、とてもポピュラーなんです。日本のブランドを着ていると、この街では、とてもクールと感じられるでしょう。知的に写る、ということです。
HF:実際、あなたはどんな日本のブランドが好きですか?
ST:sacaiが本当に大好きです。彼らの仕事が本当に大好きなんです。
HF:僕は、今、sacaiと仕事をしているのですが、ティビリシに興味を持つかもしれませんね。もしsacaiがティビリシにやってくるとしたら、どんなことが期待できますか?
ST:彼らがやってくるとすれば、この街に暮らす人々を熱狂させられるのではないでしょうか。11月に開催される予定のショーでは、カクテルパーティーやディナーを同時に開催するだけでなく、この街を回るツアーも企画しているんです。ゲスト達の多くは、ショーからショーへと移動するだけで、この街を見る機会が本当に少ないですから。そうやって、この街の全ての魅力を伝える機会が作れたらと考えています。例えば、ジョージアのトラディショナルなバレエを、それはいわゆるクラシック・バレエとは違うものなのですが、披露する予定もあります。
HF:ところでティビリシでは、新しいファッションや建築と伝統的な建築、文化遺産、そして民族的な衣装、それらが混在になっているように見受けられます。
ST:この街は、たしかに今、そういった意味で魅力的になりつつあるとは思いますが、一方で醜くなってもいるのです。伝統的な建築は破壊されつつあるのですから。そうやって壊されていく場所というのは、この街に住んでいる人たちにとってでさえ興味深い場所というわけではないのですが、(壊そうとするのは)その場所にある歴史というものを知らないからなんでしょう。どの建築や建物にもそれぞれの歴史と物語があり、それらは本当に興味深いものです。
HF:今回、いくつかのショーを見せて頂きましたが、今シーズンはどのブランドが最も力強い印象を与えたと思いますか?
ST:やはり「SITUATIONIST(シチュアシオニスト)」でしょうか。私はこのブランドが好きです。
HF:実は、今回、彼のショーを見逃してしまったので、もしアトリエを訪れれば彼に会えるだろうかと考えていました。到着したのが遅すぎたんです。
ところで、今回、とても多くの日本人のバイヤーやジャーナリストが来ていることに気がつきました。
ST:私たちにはPRのエージェンシーがいませんし、ゲストを招待するために働いてくれる人たちもいないので、これまでは全て私が行っていたんです。そういうこともあってか、何度かアプローチしてみたのですが、断られていたんです。今ではロンドン在住の日本人女性、ナナさんが手伝ってくれていて、日本のバイヤーやジャーナリストを招待できるようになりました。
HF:日本のバイヤーの多くは、ヨーロッパでポピュラーなものを買い付けたがるでしょうね。
ST:その通りです。それだけが理由ではないのですが、以前は日本のバイヤーを積極的に招待しようとは考えていなかったんです。だけど、今は、少しづつ増やしていきたいと思っています。なぜならデザイナーたちも準備が整い、バイヤーを招待することが有意義になったと思うからです。
HF:(ファッションウィークのメインの会場にもなっている)ミュージアムにはいくつかのショールームがありましたが、デザイナーたちはそれぞれ自らのショールームを持っていないのですか?
ST:ここティビリシでは、デザイナー達はそれぞれのショールームを持てていますが、ファッション・ウィーク中はバイヤーやジャーナリストが集まるミュージアムの中に持ち込んでいるのです。ゲストたちにとってもその方が便利でしょうし、あまり詳しくない街を移動している時間はないでしょうから。
HF:ミュージアムでは、ショーを行ったブランドをほとんど見ることができたのでしょうか?
ST:全てではないですが、私たちには様々な種類のデザイナーがいるんです。コンテストで優勝したデザイナーやマーケットに出すのは初めてのデザイナーもいます。
HF:僕はストリート・ファッションのデザイナーが好きなのですが、ジョージアではそういうデザイナーはあまり見かけない気がしましたが・・・。
ST:いえ、もちろんデザイナーの多くはストリートファッションが好きだと思います。Vetementsがよりポピュラーになったのもその要素があったからだと思います。若い世代は、この街でドレスアップすることを好みませんし、いつだってストリートファッションに身を包んでいるわけですから。
■Mercedes Benz Fashion Week Tbilisi
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