2020.05.20

ニューヨーク、ポストパンクの雄『ZE Records』を讃える

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ZE Recordsは’70年代末から’80年代前半にかけてのポスト・パンク~ニュー・ウェイヴ期、ニューヨークをベースに注目を集めたレーベルだ。THE CONVENIでZE Recordsの代表的なアーティストのイメージがよみがえったことも記憶に新しい。NYを拠点にしながらも多才なアーティストを擁する同レーベル全盛の時を、藤原ヒロシとともに今振り返りたい。

Photo&Text_ Shoichi Kajino|Edit_ Mio Koumura

「きっかけは、リジー(・メルシエ・デクルー)のTシャツが作れないかなと思ったこと。リジーは高校生の頃にオンタイムで知って、『ミッション・インポッシブル』(カヴァー)もZE盤の12インチで聴いてましたし、DJでもかけてました。あまりフレンチという印象もなかったんだけど…。彼女、当時からセディショナリーズを着てたんですよね。確か、77年頃かな」。

 ZE Recordsの顔となったのが、この”Lizzy” Mercier Descloux(リジー・メルシエ・デクルー)。彼女は同レーベルのファウンダーのひとりであるMichel Esteban(ミッシェル・エステバン)のパートナーで、彼とともに’77年にパリからニューヨークへと移り音楽活動を始める。一方でエステバンは、ロンドンからニューヨークにたどり着いたMichael Zilkha(マイケル・ジルカ)と出会い、二人のファミリーネームの頭文字からその名前を冠したZE Recordsを翌年スタートさせることになる。

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via.http://www.zerecords.com/release/189/press-color.html

 ニューヨークではアンダーグラウンドでノー・ウェイヴといわれる胎動が起きていた時期。そのアンダーグラウンドなムーヴメントが、パリとロンドンからマンハッタンに着いた異邦の若者二人には十分すぎるほど刺激的であったはずだ。

 まさにノー・ウェイヴの流れを汲んだサックス・プレイヤー、James Chance(ジェームス・チャンス a.k.a. ジェームス・ホワイト)は、ZE Recordsにおいても重要な存在感を放っている。

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 「ジェームス・ホワイトが『ヒート・ウェイブ』を発表した辺りはまさにアヴァンギャルドなディスコという感じだったよね。ポスト・パンクの時期って、イギリスだとチェリーレッドだったり色々なレーベルが勃興して、音楽的にも様々な方向に散らばっていった印象があるんだけど、ニューヨークはもともとディスコ・パンクっぽいカラーが強い街だったから、そのままその方向に向かって進んでいったような記憶があります。WAS (NOT WASも当初からテクニカルでトーキング・ヘッズっぽかった。それからキッド・クレオールもZEだったんですよね。『サンシャワー』のサヴァンナ・バンドで有名になった人。彼がZEで活躍していた頃、ちょうどそれに呼応するようにイギリスではファンカラティーナ※が流行っていたんですよね。ロンドンでキッド・クレオールのライヴ見たとことがあるんだけど、前座はP.I.L.のジャー・ウォブルだったよ」。

(※アメリカのディスコ・ミュージックとラテンを加えたイギリスのニュー・ウェーブ系ダンス・ミュージック。80年代に流行した)

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Via:http://www.zerecords.com/

 THE CONVENIのコレクションにはそのキッド・クレオール&ザ・ココナッツのデザインはないが、ZE Recordsでは最もメジャーな音楽性を持っていたグループだった。もう一人、リジーと双璧をなしていたZE Recordsの華やかなオルタナティヴ・ディスコ・クイーンで、レーベルの創設者の一人、マイケル・ジルカのパートナーだったChristina(クリスティーナ)。惜しむらくは、つい先ごろ久しぶりにニュースにその名前が挙がったのが、コロナ渦でのその訃報であったことだ。ちなみにリジー・メルシエ・デクルーも2004年にその短い人生を終えている。

 最もカルト的な存在感を放っていたのがパリのニュー・ウェイヴ・グループGarçons(ギャルソンズ)だ。フランスでその前身グループMarie et les Garçons(マリー・エ・レ・ギャルソンズ)のデモに触れたエステバンが、ニューヨークに連れて行き、John Cale(ジョン・ケイル)にプロデュースを頼んでまでレコーディングしたという逸話がある。ZE Recordsはその後マリーが脱けたギャルソンズを世界に紹介した。ガレージとディスコをつないだ彼らこそ、その後フレンチ・アンダーグラウンドに脈々と流れる血の源流となったとも言える。

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Via:http://www.zerecords.com/

「この頃、ニューウェイブのメインストリームはロンドンだったと思うんだけど、珍しくニューヨーク発の音楽レーベルということでZEは注目されてたんだよね。レーベルカラーは多彩だけど、ZEはフラッグチェックのデザイン、黄色のレーベルカラーでいかにもニューヨークのイエローキャブを彷彿とさせてたよね」。

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 終始オルタナティヴな立ち位置を守り抜きながらも、音楽のシーンのうねりの中で確かな爪痕を残したレーベルZE Recordsの精神を感じながらコレクションを纏ってみたい。

■ZE Records THE CONVENI COLLECTION
https://www.junonline.jp/news/32940

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