幻想的な雨模様にsadeの歌声、sacaiが江之浦測候所で2021年春夏コレクションショー
2017年に誕生した神奈川県小田原市の小田原文化財団江之浦測候所。現代美術作家・杉本博司が設計した、相模湾を望める総面積3000坪の壮大なランドスケープを舞台に、「sacai(サカイ)」が10月7日、2020年春夏コレクションのランウェイショーを開催した。
ちょうど前日には、デジタルとフィジカルが交錯したパリファッションウィークが終わったばかり。今シーズンは渡航を断念し、ファッションウィークのプラットフォームと連動しデジタルでの発表を行う日本ブランドが多かったが、sacaiはそこに参加はせず「UNDERCOVER(アンダーカバー)」との合同ショー以来、2度目となる国内でのショー開催に踏み切った。
会場となった江之浦測候所は、都心から車で2時間弱。決して近いとは言い難い場所選びは、デザイナー阿部千登勢が好きな場所でもあり、今の状況下でショーを行うには他にはなく相応しいという判断から。同施設でファッションショーが開催されるのは初となり、またとない競演を見に招待客約200人が訪れた。
ショー会場となった壮大な大自然を望める石庭には、小さな小部屋のようなアクリルで仕切られたボックス型の客席が並び、まるで現代アートさながらの眺望に一転。1人の人間がすっぽりと収まるサイズのオリジナルの客席は、隣とも遮断されることで自分の空間を保つことができ、また図らずも天井から降り注ぐ雨も凌ぐことができた。
開始時刻の17時を過ぎると小雨だった雨は徐々に強まり、降り頻る中でショーはスタート。2021年春夏コレクションはsacaiらしい複数のピースを「ひとつ」のアイテムとして見せるハイブリッドなアプローチは貫きつつも、「ドレス」が持つ女性らしさとパワーに対する賛辞にフォーカスし、プロポーションを探究している。コンパクトなシャツやジャケットに、エクストラオーバーサイズのパンツを合わせ、ベルトでコンバインしたドレスは今季の象徴的なルックの一つ。また、MA-1やトレンチのディテールはスカートのパーツとして、ルーズな折り目のプリーツはテーラードスーツと再構築させることでドレスとしての解釈を広げて見せた。
なかでも注目を集めたのは、クチュールのテクニックを応用したフリンジのスカートとスタイリングされた英国のレジェンダリーアーティストsade(シャーデー)の顔をプリントしたTシャツだ。後にショーを終えた阿部もそれを纏い招待客の前に現れたことから、その存在感がより強く印象付けられた。
プリントされているのは、1994年に写真家Albert Watson(アルバート・ワトソン)がベストアルバムのために撮影したポートレートだ。阿部が今シーズンの制作において影響を受けたという彼女の女性らしさや強さ、柔らかさに秘められた魅惑的な力は、いつもよりも大胆に入った胸元のカッティングや、ドレスの合間から覗くレースのパンドゥーといったディテールにもリンクしている。
さらに雨が強くなるなか迎えたフィナーレで流れたのは、Sadeの「Kiss of Life」。会場は彼女のスモーキーヴォイスに包み込まれ、生憎の雨模様にもかかわらずドラマチックで幻想的なムードが漂った。ショーを終え、「雨も演出の一つですから」と笑顔で答えた阿部千登勢。「新しい景色」を追い求め、更新し続けるsacaiへの賛辞を贈りたい。
■sacai
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