「スタイリスト私物」山本康一郎が愛する私物たち Vol.1
スタイリスト山本康一郎さんの活動は、スタイリストだけに止まらない。「最近では、私物さんと声をかけられることもある……」とこぼす彼は、自身のレーベル「スタイリスト私物」を掲げ、その視座で選び抜いた愛用ブランドと協業。数々のアイテムを銘品へとアップデートし続けている。都内某所にある彼の仕事場は、興味深い彼の私物が集まる宝庫だ。そんな特別な場所で愛する私物たちの中でもいま、最も”親密”なアイテムをピックアップ。康一郎さん自らが撮影した写真とともに紹介する。
Photo_Koichiro Yamamoto Text_Mio Koumura
■イムネオール 100
イムネオールは、9種類の天然100%エッセンシャルオイルを配合したリフレッシュローション。奥様が愛用していることで最近、自分の生活にも取り入れるようになったという。ヨーロッパでは万能オイルとして重宝され、日本でも子どもからお年寄りまで幅広いファンが存在している。購入先のARTS&SCIENCE(アーツ&サイエンス)では2016年から取り扱いを開始。フライトの際の乾燥した機内で使用するという愛用者もいるという。厳格なEU基準をクリアしたベストセラーアイテム。
■アウトサイダーアート
5年ほど前から親交のあるという井出恭子さんからの誕生日プレゼント。青山のギャラリーで開催されたしょうぶ学園の作家による作品展で、井出さんが発掘したアートだ。「情熱的で私にはとても追いつけないような、訳の分からないかっこよさがありました。考えて出てくるものではないだろうし、どうにもこれは敵わないな、といった爽快感があったのを覚えています」と作品に出会った印象を振り返り、プレゼントとして贈った理由をこう語っている。「誰よりも敏感な康一郎さんには思いきり無垢なものが似合うと思い。康一郎さんの真面目とわがままを行ったり来たりするその真剣さは、純度の高い無垢だと思っていますから」。
■コム デ ギャルソンの安全ピン
「最近は、保存用の袋が付くようになったんだ」という発見とともに見せてくれたのは、これまで何度も購入し、常備しているという「COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)」の安全ピン。ブランド名の記載はなく一見するとただの安全ピンだが、よく見ると留め金部分のデザインにコム デ ギャルソンらしさをわずかに感じ取れる。20年以上前から販売されているという定番アクセサリーで、カラーはメッキ加工の施された金色のみ。康一郎は仕事や私生活において、相棒のように愛着持って使い続けているようだ。サイズは4cmから8cmまで4種類。今も青山店のみで販売されている。
■アスティエ・ド・ヴィラットのインセンスバーナー
「猫との出会いで人間関係について学んだことは多い」と話すなど、猫を敬愛する康一郎さん。友人から新築祝いとして届いたこの「Astier de Villatte(アスティエ・ド・ヴィラット)」のインセンスバーナーは、片隅に鎮座し、家主や訪れる人たちをじっと観察している。アスティエは2014年から仏画家バルティユスの妻で芸術家の節子・クロソフスカ・ド・ローラ夫人と協業した商品を展開しており、猫のインセンスバーナーはそのファーストコレクション。猫をこよなく愛し、自身の化身としても度々作品として描いてきたバルティス。口からゆらりと漏れるお香の煙とその姿に、愛煙家としても知られる彼そのものを重ね合わせたような、夫人の愛を感じさせるデザインに仕上がっている。
■エンダースキーマのパイプ椅子
仕事場に並ぶパイプ椅子。背もたれと座椅子部分には通常、塩化ビニールが使用されるが、ヌメ革が張られていることで経年変化が楽しめる。これはデザイナー柏崎亮が手がける「Hender Scheme(エンダースキーマ)」によるもの。2016年に恵比寿に出店した直営店「スキマ」1号店オープンの際にスタートした新ライン「re_creation」のアイテムとして製作され、合羽橋に2号店がオープンした現在でも1号店のみで展開されている(一部、イベント時を除く)。素材はホースレザーとピッグレザーの2種類から選ぶことができる。背もたれ裏の金属部分に刻印された「KOKUYO」はそのままに。既存のものに新しい視点を加え、二次創作的な発想で新しい解釈を提案する「エンダースキーマ」の原点を感じさせるアイテムだ。
■気仙沼漁師カレンダー
写真家の奥山由之が撮影した2019年の気仙沼漁師カレンダー。「水を操ったような奥山さんのお写真を拝見し、なんて瑞々しく、透明感あるお写真を撮られる方なのだろうと、お声がけしました(気仙沼つばき会 高橋会長)」と企画が進行。その日どういった撮影ができるかは天候次第、漁師との相性もある中、漁船に乗って撮影できたのも彼の人柄ならでは。「荒くれ者のように思われる漁師ですが、狭い漁船で同じメンバーと長時間仕事をするのは人間力無くしては認められないような世界なのです。そういった漁師ならではの仕事姿勢や素顔を撮影いただいたように思います」と高橋会長。なお、東京・品川のキヤノンギャラリーSでは、3月7日から奥山の最新写真展「白い光」も開催される。
■YU&ME
京都でサウナの梅湯を営む湊 三次郎さんから届いた「YU&ME」は、京都造形芸術大学の交換留学生として6ヵ月間京都に住んだセザくん(Cesar Debargue)が製作したZINE(ジン)。最初は「奇妙な体験」だったというセザくんは「銭湯は地域文化について学ぶのに最適であり、同時にとても神聖な場所。リラクゼーション効果はもちろんだが、銭湯そのものやグッズにも美学が潜んでいる」とその魅力に一気に惹かれ、「自分の知見を広げるとともに、地元の方や外国人に魅力を知ってもらえるようなガイドブックをユーモアを交えて作ろうと考えた」と製作に取り掛かったという。グラフィックアーティストを目指しているという独自のイラストと、銭湯を愛する人々へのインタビュー、写真などを編集した1冊に、銭湯への偏愛が詰め込まれている。ちなみに、セザくんが最も記憶に残っている銭湯は平安湯。「小さな銭湯ですが、地元らしい雰囲気が味わえる。仕事を終えた後ラーメンを食べ、銭湯に入り、コーヒーを飲んで1日を締めくくるのが日常でした。GOKURAKU」。
■エルメスの毛ブラシ
数10年前に購入した「HERMÈS(エルメス)」の毛ブラシは、馬の顔周りを撫でたり、毛並みを整えるために作られたものだが、康一郎さんはスニーカーやデザートブーツのメンテナンスに使っているという。深いブルーに染色された豚毛に、同色のレザーの持ち手。木製の柄の中央にほどこされたブランドロゴ(馬・馬車・従者)の刻印。「もっと深い色だったなぁ」と懐かしむ毛色の変化に愛着を感じさせる。馬具として長年取り扱われている定番だが、残念ながら現在、国内で手に入るのは黒の豚毛の毛ブラシのみ。現行品のレザーのカラーはブラック、オレンジ、ブラウンの3色が用意されている。
▷山本康一郎 @stylistshibutsu
1961年京都生まれ。東京で育ち、大学時代からフリーエディターとして活動。雑誌や広告、CMなどメンズスタイリングを手がけるほか、ブランドのディレクションにも携わる。2016年、2018年にはクリエイティブディレクターとして2度のADC賞を受賞。
- Keywords: