2020.10.17

「僕はまだまだルーキー」藤原ヒロシに聞くslumbers2と歌い続ける理由

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 前作からは3年ぶりとなる藤原ヒロシの新アルバムがリリースされた。本来であれば、5月には予定されていた発売が、コロナウイルスの影響もあり10月へとずれ込んだ形だ。山口一郎が主宰するNFレコードに参加後にリリースされた「slumbers(スランバーズ)」に続き、本作のタイトルは「slumbers 2」。犬のキャラクターが愛らしかった前作とは打って変わって、優しい色合いのベージュカラーにHajime Kuwazonoによる氏の肖像画が浮かび上がるアーティーなジャケットだ。今作では自身初のPV制作にも挑んだ今作のアルバム制作の裏側と自ら歌い続ける理由について、藤原ヒロシに尋ねた。

Photo_ Ko Tsuchiya|Interview&Text_ Mio Koumura

微笑むKYNE作品や、踊る山口一郎…楽曲&PV制作のバックストーリー

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-前作からは3年ぶり。

(月日が経つのが)早すぎますね。自分の中では半年くらいの気分。2年くらいで出せたらと思っていたけれど、結局半年伸びたから3年になっちゃった。

前作から引き続きアルバム名は「slumbers」。続編のようなタイトルですね。

特に他にアイデアがなかったのもあるけど、”スランバーズ”という言葉の響きが好きなのかな。当初、slumbersという名前でバンド名でリリースするのもいいなと思ったこともあったけれど、結局アルバムタイトルにしたんです。前作から一緒に制作しているシュンスケくんって、スランバーぽいでしょう?いつもうたた寝していそうだし。それもあるかも。彼とはYOKINGとやっていた時(AOEQのツアーメンバーとして参加してもらってから。とてもやりやすいし、才能溢れる人だと思う。

-ヒロシさんは以前、鼻歌やギターで音楽を作るとお話されていましたが、そこからシュンスケさんはどうやって楽曲を仕上げていくんですか?

曲によってまちまちだけど、一緒に「ここはこういうコードでこういうことだよね」「ベースラインはこれで」と作ることもあるし、ある程度こちらで作ったものをアレンジして全然違うものになって返ってくることもあって、それも面白い。TERRITORYなんかはディスコっぽくしたいとか、アイデアとかを出し合いながらスタジオで作りました。

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今回は初のPV制作も。

slumbers」をリリースした時にレーベルの社長(山口一郎)からプロモーションビデオを作った方がいいと言われていたんです。でも、前回は間に合わなかった。それで「今回はできないのかな?」ということで。

-制作は「水曜日のダウンタウン」のオープニングアニメなどを手がけるODDJOBが担当されています。

ODDJOBの藤井くんとちょっと前にカフェで偶然20年ぶりくらいに再会して、そこからそこでよく顔を合わせるようになったんだけど、前に「ヒロシさんのPVやりますよ」と言ってくれていて。今回話をしたら、本当に作ってくれました。藤井くんの会社はCGは使わずに、アナログに描いて仕上げているみたいです。

撮影中のオフショットがインスタでも話題でした。あのグリーンシート前の

あれクロマキーって言うんですよ。昔から使われているもので、30年前メンノンの最初の連載がクロマキーだったから、クロマキーと僕の付き合いは長いです。

-そんな名前が。TERRITORYでは山口さんとダンスしたり、KYNEさんの作品が微笑んだり。

TERRITORYの振り付けもチームODDJOBのアニメーターの人たちの方で考えてもらったものです。2人ともその日のうちに、すぐマスターしました。KYNEくんの作品はPVの制作途中に、彼の描く女の子がヒロインとして出てきたらいいんじゃないかなって思って僕から連絡入れてみました。

仕上がったPVの中で、一番気に入ってる作品をあげるとしたら?

PASTORAL ANARCHY(パストラルアナーキー)かな。ODDJOBonnacodomo (オンナコドモ※)さんが考えてくれたんですが、骨になって朽ちていく感じが面白い。「目玉とか落ちてもいいですか?」と聞かれたので、「どんどんやってください」と伝えました。onnacodomo の中の方のお父さんが小学校で使われる人体の解剖図を描いているそうです。

※onnacodomo…ミュージシャンのDJ Codomo、アニメーション作家のせきやすこ、イラストレーターの野口路加の3人による異色のVJユニット。

今作にはJamie Reidジェイミー·リードも参加しています。AKA SIXからTシャツもリリースされ、すぐに完売してしまいまったようですが。

文字だけですけど。サマリーの山本くんにこの曲を聞いてもらった時、彼が”Accidental Anarchist”というグラフィックTシャツを出しているから、この楽曲名でも作ったら面白そうだと話してくれたんです。それで聞いてみたら快諾してくれました。

豪華ですね。そういったアルバム制作の過程はヒロシさんのファッションの仕事とも似ている気がします。

そうですね。きっと何でもものづくりは同じです。多分、ディアゴスティーニでフェラーリ作る時も一緒だよ(笑)。

進化が終わった今、曲を作り歌う理由

-3年ぶりにアルバムを作るにあたり、音楽制作に変化はありましたか?

音楽の作り方は基本変わらないですね。自分から生まれるものは、アナログな過程を経てつくられるし、いつまでもアナログなものを、とは思っています。でもこれは誰でもそうなんじゃない?始まりは何でも最初はアナログで、ギターでも鼻歌でもピアノでも。

ノスタルジーを感じさせるメロウな楽曲が多いが、過去の楽曲を意識して作ることもありますか?

意識していないです。でもそういう意味では、僕は進化していないし、それは世の中の音楽も一緒。少なくとも、90年代からここ30年間は。

音楽の進化が止まっている?

手法で言えばそうですね。音楽だけではなく、ファッションもそうじゃないかな?進化は終わったんだと思います。

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-そんな今、新しい楽曲を生み出すことはヒロシさんにとってどんな作業ですか?

それでも、新しいものを作るということは楽しいですよ。進化が終わった後でも、ずっと残るものは残るから。音楽もピアノもバイオリンも。昔のまま止まって、今もそれを使って音楽は作られる。新しい手法を開発したり、新しい表現を、ということではなくても、あの時の感じで作ってみよう、ミックスしてみようとか。そういうことが今は面白いんです。

ミュージシャンとしての自分をどう分析していますか?

音楽において僕はまだまだルーキーだから。音楽業界は辞める人がいないから、周りは先輩だらけだし、皆死ぬまで音楽を続けるじゃないですか。参加してくれたベースのハマくんも渡辺くんも、山口くんも先輩です。僕がちゃんと音楽を始めたのは、ここ10年くらいだから。

音楽プロデューサーとして”音楽をされていた”と思いますが。

全然違います。以前はスタイリスト、今はデザイナーのような感じかな。音楽を作って人に演奏してもらって歌ってもらうのは、自分で音を奏でるのとは違うんです。以前は全てがフューチャリングだったけれど、今はそれをウリにはしたくないのでヴォーカリストを誘わなくなりました。姿勢として。うまい人に歌ってもらって、藤原ヒロシ名義でというのは今は違うかなって。

自分の歌を自分で伝えていくということですね。

そうですね。僕も成長したのかな。楽器や歌、絵もそうだけど、うまい人なんていくらでもいる。前は上手い人と組んで作っていたけれど、上手いことが必ずしも魅力になるわけじゃないというか。下手な絵でも可愛かったり、歌もその方が心に響くこともある。全然弾けてないけどこのギターすごく心に染みるみたいなことが、魅力的に感じるようになったんですだから、そういう意味でもまだ僕はルーキーです

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-メジャーにはなりたいですか?

なる必要はないかな(笑)。今のメジャーな楽曲が面白いと思えないですし、自分が作る音楽はメジャーなものとは違う。でも、山口くんの歌詞はすごいですよ。僕が社長を褒めるのも何だけど、いつも聴いて反省する。

– ヒロシさんの歌詞も興味深いです。例えばアルビノのことを書いた「ホワイト」なども題材になったり。

毎回そういう楽曲はあります。今作だとパストラルアナーキー(牧歌的アナーキー)。イタリアの国境地帯にあるスイス·アスコナのモンテ·ヴェリタという場所があるんです。建築はバウハウスだったりするんですが、1897年に高度成長期のドイツ社会に嫌気が差し山に移りすんだ思想家や芸術家らがコミューンをつくり、喧騒から離れて自給自足で野菜をつくり、思想を語り合い、裸で生きていくということに興味を持って。

-「MaiとPaul」はご自宅の絵画ですよね?ヒロシさんの日常が見え隠れする歌詞もあります。

そうですね。TERRITORYは歌詞に煮詰まって、最後はレコーディングスタジオで原田さん(マネージャー)の頭に差したブラインドの影が目に入って……。そういう時に生まれることもあります。

最後に「slumbers 2」ご自身ではどんなアルバムに仕上がったと思いますか?

歌やインスト、打ち込みがあったり。意識したわけではないけれど、近年のslumbersからの流れにちゃんと沿ったアルバムになっています。ということは結局、僕が好きな音楽はこんな感じなんだなって思う。そんな中でも、今回ディスコっぽい楽曲が作れたことはよかったです。特に、 TERRITORYは昔DJとしてかけていたような音楽だけど、今までこういう音楽は作ってこなかったから、楽しかった。そういう音楽を、また作ってみたいな。

藤原ヒロシ新アルバム「slumbers 2」、Deluxe EditionはTシャツ付き

■HIROSHI FUJIWARA『SLUMBERS2』
https://www.jvcmusic.co.jp/fujiwarahiroshi/slumbers2/

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