2020.05.15

藤原ヒロシと黒河内真衣子 2人が今、話したいこと。

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「Moncler(モンクレール)」をはじめ数々のブランドとのタッグが続くfragment design(フラグメントデザイン)の藤原ヒロシと、「TOD’S(トッズ)」とコラボレーションを発表するなど世界へと活躍の幅を広げる「Mame Kurogouchi(マメ クロゴウチ)」デザイナー黒河内真衣子。藤原がディレクションした「the pool aoyama」で出会って以来、コラボレーションを通してだけではなく、プライベートでも2人の親交は深い。この日、アトリエも構える世田谷区羽根木にオープンしたばかりの直営店Mame Kurogouchi Hanegiに初めて足を運んだ藤原。 旅の持ち物にはじまり、コラボレーション、ものづくり、それぞれの葛藤に至るまで、”いつものムード”漂う2人のトークに耳を傾けた。

Photo_ Masami Naruo|Interview&Text_ Mio Koumura

旅の多い2人の荷物と仕事

黒河内:ヒロシさんって色々なお仕事を並行してるじゃないですか。私は今回久しぶりに、マメ以外の仕事をしたんですけど、とても楽しかった反面、長い期間自分のブランドも同時進行していたから時間の使い方や移動距離など色々大変だったなと思うこともあって。ヒロシさんのインスタを見ていると、結構びっくりする程の距離を常に移動されてますよね。モンクレールの打ち合わせはにはどのくらいのペースで行かれているんですか?

藤原:1回。春夏をやらない時は半年間だけそれを続けています。

黒河内:私も月1行ってたんですけど結構バタバタでした。それを何年も続けてらっしゃるヒロシさんすごいですね

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藤原:でも23年くらいだよ?マメちゃんこそ、僕が知らない日本の田舎町に突然いたり、常に移動してるイメージがある。国内移動の方が大変じゃない?

黒河内:確かに。私、机に座って長時間仕事をしていてもインプットを得られないタイプだから、移動することがライフワークの一つになっていて。移動中は「いつまでこの生活を続けるんだろう……」みたいな気持ちになることもありますけど、目的地の景色はやっぱり素敵だしたくさんの出会いや発見があって、きっといつまでも止められないです。だからこそ常に移動は快適にしたいと思っていて、旅のワードローブはかなり厳選してます。ヒロシさんも同じですよね?海外でお会いするといつも荷物が少ない印象。

藤原:うん、基本的にはスーツケース一個だけ。鞄ってどのサイズにしても満タンにならない?入り切らないと思って大きいサイズにしても、それに伴って入れる物が増えるから、小さいなら小さいままがいいと思っていて。逆に国内で移動をしている方が荷物が多い時もある。

黒河内:今日もお持ちのあのトートバッグですよね?サイズもいつも同じで気になっていました。何が入ってるんですか?

藤原:パソコンと充電器、その時の案件資料かな。あとは音楽の仕事をする時は小型キーボードも入ってる。僕の場合はバックの中が事務所みたいなもの。アトリエがないから、どこでも仕事ができるしね。毎日リモートワークしてますよ。

黒河内:じゃぁ、ある意味襲撃されてバッグを奪われてしまったらもう……

藤原:終わりです。

黒河内:(笑)。昔から荷物は少ないですか?

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藤原:そうだね。比較的身軽だったと思うけど、特にPCの進化は大きいかもしれないです。昔は、旅に出る時はウォークマンとカセットテープをいっぱい持って行ってたからね。1本だったら1時間しか持たないじゃない?それはそれで当時は便利だと思っていたけど。マメちゃんはPCを持っているイメージがないよね。

黒河内:私も比較的コンパクトで、今は基本的にiPadとノートだけです。全部手描きでデザインを書くんですけど、最後清書したりスタッフに共有する時はiPadを使います。それこそ、TOD’Sとのコラボレーションでは、言葉の問題が大きくて。チームの方は英語が喋れるんですけど、現場の職人さんはイタリア語。ジェスチャーも交えて意思疎通はなんとかできていたけれど、「この服はこの生地にして」みたいな細かいお願いは絵に描いて伝えてました。

藤原:絵だけで生地の感じを伝えるって難しくない?いくら上手でも、絵で描くと生地の質感や厚み、触り心地とか、頭のなかではイメージできてても、聞いた側はイメージを共有され辛いんじゃないかな。

黒河内:それが伝わったんですよ。ノートはこれなんですけど。

藤原:ちゃんと描いてる。マメちゃん、デザイナーみたい(笑)。

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黒河内:ヒロシさん、そうでしょう?私デザイナーなんです(笑)。例えば今日着ている服は全部Mame Kurogouchi for Tod’sのもので、ベストはうちの過去のパターンを参考に作っているんですけど、「ここをレザーに置き換えてほしい」というお願いや、糸や織についても細かく描きます。あと、今回「旅のワードローブ」をテーマにコレクションを組み立てたんですけど、例えば私は会社に向かう道りもある意味旅の一つだと思っていて。この周辺を散歩していると色々な風景に出会えるから、木に掛けられたグリーンネットや、拾った落ち葉なんかも写真に撮ったり、ノートに貼り付けたりして。

藤原:本ができますね。

黒河内:でもこのプロセスって今まで自分がやり易くて続けてきてたものだから、それを多くの人に共有できるということも今回、自分の中では面白い発見でした。生地見本なんかもノートに敷き詰めてみたり。頭の中が混雑してるからいつもこうやって視覚化しないと、自分で認識できないんだと思うんです。だから思ったことはどんどんノートに書くようにしてるんです。

藤原:メモしないと忘れちゃうからね。僕もiPhoneのメモに面白いこと、忘れたくないことをいっぱい残しています。

良いコラボレーションとは?そのプロセスと背景

黒河内:モンクレールはどのような制作プロセスで進められているんですか?

藤原:先方が作りたい型数は決まっているので、僕がアイデアやコンセプトを持って行って、最初のイメージボードみたいなものをチームで話しながら作っていく感じ。いくつかサンプルとして自分のイメージに近い古着を持って行ったりして、説明することが多いかな。あとは、企業が持つ最新のテクニックみたいなものもあるから、現地のデザイナーと一緒に話し合って決めています。

黒河内:私も最初は洋服は5ルック程度とオファー頂いたんですけど、自分の中の最小旅セットをイメージして書き出して、デザインしていきながらディスカッションしていくにつれて最終的には型数がすごく増えちゃって。ヒロシさんは何人くらのチームで取り組んでらっしゃるんですか?

藤原:僕以外に、メインのデザイナーが2人とアシスタントが1人。このチームに、時間ごとにマーケティング担当だったり、生地担当だったり、ボタン担当だったりが加わって代わる代わるにミーティングします。

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黒河内:もプロジェクトが始まった当初は全く様子がわからず飛行機に乗って、到着後に送られてきた滞在中のタイムスケジュールて、ミーティングの予定がびっしりで驚いたのを覚えてます。

藤原:そうそう。たまに、チームで抜け出してお昼を食べに行ったりするけれど、朝8時半にホテルに迎えがて連れ去られる感じ(笑)。そこからはずっとミーティングですよね。

黒河内:もう一つ驚いたことがあって。最初に伺った時、空港に車が迎えに来てくれていたんですけど、乗ったらまさかの4時間移動(笑)。トッズの本社のあるマルケ州のカセッテ・デテという街に到着すると、そこには東京ドーム何個分?というほどの広い敷地の中に本社オフィスだけじゃなくて職人さんたちが働く工場もあって、デザイナーも職人も同じ敷地で働いていることに感動したんです

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藤原:へえ、すごいね。僕は工場には行ったことがないけれど、いつも行っているモンクレールのオフィスはミラノに2箇所あって、小さい方はここ(マメのプレスルーム)くらいのスペースで5階建。もう一箇所の方が広くて、社食があります。

黒河内:生産数が多いので、きっと工場は広大だと思いますよ。実際に仕事をし始めると、コラボレーションってどこまで入って仕事をしたいかで全然違うんだろうなって。私はものづくりにのめり込んでしまうタイプなので、つい深いところまで入ろうとしてしまいます。「あとは任せるね」と周りのスタッフに言えたらどれだけ楽か、とは思うのですが……

藤原:多分、僕はどちらかと言えばそっちの方が得意なんです。

黒河内:以前も私、ヒロシさんに同じような相談してましたね。パン作りの話で励まされたような。

藤原:あー、「ケーキの切れない非行少年たち」を読んだ後だ。例えば、パンが食べたいと思ったら非行少年は衝動的に万引きをしてでもすぐに食べることを選ぶけれど、想像力や認知力が高くなれば、美味しいパン屋を探すだけ止まらずに作り方を勉強して、より美味しいものを探して食べるみたいな内容で。動物で言えば、熊は本能的に蜂蜜を手でベトベトになってでも食べるけれど、賢い猿は棒を使って食べるみたいな。マメちゃんならとことん美味しいパンを求め続けそうだなって。つまりは知的ということですよ。

黒河内:ありがとうございます(笑)。でも、私もベトベトになってでも手で蜂蜜を食べる熊みたいに野生的でありたいって思うんですよね。ヒロシさんってたまに、熊のようなお洋服を作っているじゃないですか?絶対にそういう衝動って必要なんですけど。

藤原:熊のような服かな(笑)?でも、マメちゃんって結構自分で何でもやりたい人でしょ?これも前に友人と話していて初めて気づいたんだけど、フランスは一流レストランでもパンはパン屋で買ってくるんだよ。

黒河内:自分たちでは焼かないんですか?

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藤原:そう。だからフランスでどんなに美味しいレストランに食べに行っても焼き立てのパンが出てこないんです。でも、そのレストランのシェフが認めるパンだから自信を持ってオススメしている。それって、多分日本の『餅は餅屋で』と同じ考え方なんだろうなって。そもそも自分で作るよりもいい靴をNIKEが作ってくれるからそこで作ってもらおう、というのが僕のコラボレーションの始まりだったし、ずっとそういう感覚でものづくりをしてきたから得意なものは得意な人に任せたい。

黒河内:なるほど。でもちょうど私もレザーという素材を使って、日本でものづくりをしてきた中でこれまで色々な壁を感じていた時だったので、そういった背景を持つTOD’Sさんと一緒に取り組めたのは、自分の中でまた違ったが開いた気がしました。

藤原:それはいいことだね。僕は革靴を頻繁には履かないし、ほとんど作らないから、もしTOD’Sと何かと言われても多分、今はお互いが得るものや与えられるエッセンスが見つからないかもしれない。でもマメちゃんみたいに、レザーを軸に背景や共通点があるなら組むには最高の相手だったんじゃないかな。

黒河内:私、21.5と足が本当に小さいんですよ。海外のサイズだと34というほぼ見つからないサイズ。たまに見つかったとしても、履き心地とか当たりが悪かったりするんですけど、TOD’Sの靴はもともと持っていて、しかもすごく履きやすくて。なんかこのブランドとだったら色々なことを広げて、自分らしい女性像を作っていけそうだなって。

藤原:靴を作ってきた企業だからだよね。多分、ファッションブランドだと、そこまで小さなサイズの靴をたくさんは作ってきてはいないかもしれない。

黒河内:そうですよね。ここまでの深度でブランドと一緒に取り組むのは初めてでしたけれど、とても自由にはやらせてもらえたと思います。そこはありがたいな、と思いました。

藤原:僕も自由度は割と高いですよ。でもブランドと取り組む枠は最初に決めるかな。ロゴなのか、グラフィックなのか、アイテムなのか、ルールを決めてもらう。その上で、自分が楽しめるかと驚きがあるか。僕がやっても面白くならないかもな、というものはお断りします。

黒河内:ヒロシさんってものづくりの過程で、どのタイミングが一番盛り上がりを見せるんですか?

藤原:盛り上がりはサンプルが出来上がる前とか?

黒河内:前なの!?すごくストイック(笑)

藤原:いや、できた時か(笑)。でもデザインを描いてる時も、いいのができたら嬉しいよね?

黒河内:うんうん、わかります。最初だから、想像が膨らんじゃう。

藤原ヒロシの少年心と10年目マメの変化

河内:コラボレーションを通して私自身の中で気づきがたくさんありました。自分の中でMame Kurogouchi自分が紡いだ物語の結晶が詰め込まれた『私小説』のようなイメージなんですけど、TOD’Sとのコラボレーションはその私小説を作るための準備服というイメージ。今年でブランドを始めて10年目なんですけど、20でブランドを始めた時と今って全然違っていて。私は自分が着たいものをずっと作ってきたのですが実は作りたいものと着たいものの間の乖離悩むこともこれまではあったんです。でも今回のコラボレーションは落ち着いた色味が好きな私の趣向がすごく反映されていて、今の自分とコレクションがすごくリンクしているし、ブランドを始めたばかりの頃のような、初心に戻った感じがしていて。ヒロシさんはその辺りがすごく軽やかで、羨ましい。私にはその軽やかさが必要なんだろうなって。

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藤原:何だろうな。答えになるかはわからないけど、僕は自分の中で革ジャンを脱ぐタイミングを無くしたんですよ。パンクロッカーって、若い頃は尖っているけれど、大人になると革ジャンを脱いで、家庭を持って、落ち着いていくでしょう?そうやってみんな、普通のちゃんとした大人になるんだけど僕はそのタイミングを失ったってしまって、結局脱ぎきれていないまま。だから仕方なく、ダメなまま生きているし、そのまま生きていこうと思っているんです。まぁ、ダメかどうかはわからないけど、普通になれないまま、だね。

黒河内:え!私それはすごく素敵なことだと思うし、ヒロシさんのこれまでを全部知っているわけじゃないけれど、みんながヒロシさんに惹かれる理由がわかった気がします(笑)。だって脱がないことで、保たれ続けることもあるじゃないですか。

藤原:もちろんそれもたくさんあるかもね。だから僕はその上で最善の生き方を選んでいるんだと思うけど、ちゃんとした大人になることは諦めたかな。

黒河内:私、ヒロシさんが脱がないでい続けられた秘訣を知りたいです。

藤原:いや、気がついたらそうなってたから(笑)。大体、みんなそれぞれが居心地の良いところで止まるんですよ。僕らの世代だと多くの人がパンクに影響されて、パンクのままの年を重ねた人もいるだろうし。でも僕はパンクは好きだけど、その次の音楽も好きだった。スカと出会って、ヒップホップに出会って、僕はその都度居心地がいいなって思うんです。でもすぐに飽きちゃって、目の前の面白いものについつい飛びついてしまう。その次に何かあるんじゃないかっていつも期待してるのかもしれないです。

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黒河内:素敵だと思います。私もう少し直感的に物事を捉えられるように、今の自分を見直したいなって思っていて。本当に食べたいものは蜂蜜なのか、どんぐりなのか。繊細な感覚で把握できるようになりたい。

藤原:でも、熊はそんこと考えずに蜂蜜を食べちゃって、どんぐりがあることにすら気づかないじゃない(笑)?

黒河内:確かにそうかも(笑)。私も3歳の頃、お姫様の絵を描くのが好きで、もっと可愛くしたいくて「可愛いドレスを描けばいいんだ」って気づいた時から、そのまま同じことを続けいるんですけどね。一方で会社もできたし、自分自身が少し器用になったなって感じるんですよ。

藤原:それはもともとマメちゃんが持っているものなんじゃない?

黒河内:でも、絵をノートに描く時に上手く描こうとしちゃったり、伝えられるものを描かなきゃって思ったり。もっと衝動に動かされて何かを伝える時って、そんなにうまくまとまるわけないんじゃないかなって思うんです。だからヒロシさんみたいに見つけたら「すぐ蜂蜜食べよう」みたいなアプローチが、自分にすごく必要というか……。

藤原:僕、小馬鹿にされてます(笑)?

黒河内:してないです(笑)!本当に、ブランドを始めて10年経った自分がこれから何かをしていく上で絶対に必要なことだと思ったんですよ。

藤原:10年でしょう?マメちゃんはまだまだルーキーだよ。

黒河内:そうですか(笑)?でも、今年に入って自分の中で色々な価値観がガラリと変わったというか。10年前は欲や希望みたいなものに突き動かされていた気がするんですけど、例えば会社で言えば大きくするというよりは継続させていきたいというように、今は全く別のベクトルで価値を図っているような。達観しているつりはないんですけど、私にとって「どうしたら3歳児のままでいられるか」「面白さの鮮度をどれだけキープし続けられるか」は一つの課題だなって。

藤原:でもマメちゃん楽しそうだけど。特に、コレクションの話してる時。楽しそうだな〜って(笑)。最初に想像した瞬間から作り上げる過程を経て、それが形になった時の喜びってあるんだよ。でも、いつもというわけじゃないから、話を聞きながらちょっと羨ましかった(笑)。

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黒河内:そこが私の熊っぽさなのかも?(笑)

藤原:そうだね(笑)

黒河内:でももっと、生活の中で濃度濃い自分でいられるか、みたいなものを大事に次の10年頑張りたいです。最後に聞きたいんですけど、私のお店どうでしたか?

藤原:いや、最高じゃないですか?線路が見えるし、テネメント(長屋)だし。本当はチェリーに行きたかったんだけどな。(※近所の喫茶店、取材日は定休日)

黒河内:そう言ってもらえて嬉しいです。チェリーはねすごく普通の喫茶店なんですけど、本当に居心地がよくって。次はいきましょう。

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