2018.09.17

比類なきプロスケーター上野伸平の素顔

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 藤原ヒロシがSNS上で“MY HERO”と表現し、2013年リリースのスケートボードビデオ「LENZ Ⅱ」が世界中から称賛されるなど、プロスケーターとしてだけでなくスケート映像作家としても支持を集める上野伸平。若干34歳、その軌跡とスケートボードを基軸にマルチに広げ続けるクリエイションの源泉を探った。

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撮影も編集も全て独学。
誰もやってくれないし、誰にも任せたくなかった。

 上野が20年にわたって人生を共にし、この先も熱狂し続けるのであろうスケートボードとの出合いは小学生の頃。「当時住んでいた社宅の倉庫にたまたまデッキがあって、それで遊ぶようになったんです。ジャッキー・チェンの映画を観て、子供ながらに憧れてましたね。でも周りの友達はTVゲームや他の遊びに夢中で。一緒にやる友達もいなくて徐々にスケートボードから離れていきました」。そんななか再会を果たしたのは、スケートボードブームに沸き立つ1998年。彼が15歳の頃だ。それから長きにわたってスケートボード一色の人生を歩んでいるわけだが、「同じ熱量でスケートボードを愛し、信頼し合える仲間」との出会いがモチベーションをさらに加速させたという。

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PHOTO_Shinsaku Arakawa

「運命的でも何でもなく、45人のキッズが地元の公園に集まってビデオ撮ろうと、よくあるベタな感じで始まったのがスケートチームのTightbooth。今みたいにスマホなんてないからお金を出し合ってビデオカメラをゲットし、憧れの先輩たちに追いつこうと必死でしたね。撮影し終わった後、仲間の家に集まってアングルやライティングなど、スケートボードだけじゃなく映像のスキルも磨いてました」。スケートチームとしてのTightbooth9年で活動に終止符を打ったが、「全国、世界のスケーターを起用して自分の作品を創りたい」という一心で、現在まで続くスケートボードプロダクションTIGHTBOOTH PRODUCTIONを立ち上げる。その英断がターニングポイントとなり、結果的に世界中のスケーターたちから注目を集めることに。ところで、各方面から多くのオファーを受けるようになった今でも、大阪を拠点とする理由とは何なのか。

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PHOTO_Shinsaku Arakawa

「スケートボードをスキルアップしてスポンサーをつける。ビデオを撮影して自分たちのスタイルを表現する。そういったプロセスのなかで、不自由なことは何一つなかった。撮影も編集も全て独学。誰もやってくれないし、誰にも任せたくなかった。そんな環境だったから表現するのが得意になったんです。それに当時は北海道のHIPHOPアーティストTHA BLUE HERBが地元を拠点としながら全国で勝負し、のし上がっていく姿を目の当たりにしていたのも大きな要因だったと思います。僕らの活動を通して、地方のスケーターにも勇気を与えられたらという想いもありました」。

スキル以上の魅力がある
それが他のスポーツと一線を画す所以

 そんな彼のフィロソフィーとローカルスケーターへのリスペクトを詰め込んだ、2009年にリリースされた「LENZ」。そして4年の歳月をかけて作り上げた「LENZ II」は、日本国内のみならず、アメリカやフランスなど総勢180名のスケーターが共演を果たし、世界のストリートから賛辞を贈られた。そして藤原ヒロシからもエールが届いたそうだ。「SNSで『LENZ II』おもしろかったって言ってもらえて、DMでお礼を伝えました。ずっと第一線で活躍されているトップクリエイターが、アンダーグラウンドな僕のことを知ってくれてたことが素直に嬉しかった。光栄なことだし、もっとがんばらないとなって改めて思いましたね」。

そうしたエピソードだけでなく、2020年の東京オリンピックの正式種目に決まり、神奈川県の鵠沼海浜公園スケートパークに日本初となる国際規格のコンビプールを整備すると発表されるなど、スケーターを取り巻く環境は大きな転換期を迎えようとしている。視界良好なのかと思いきや、少し表情を曇らせた。「ストリートスケーターとして言うなら、逆に悪くなってるんじゃないかなって思います。スケーター人口が増えてるのはいいとして、オリンピックが前に出すぎちゃってるというか。競技としてのスケートボードとストリートを一緒くたにされているような気がします。街中でビデオを回してたら、プロはこんな場所でスケボーをせず、ちゃんとした施設で練習してる。あなたたちは真面目に頑張ってる人たちの足を引っ張ってるって言われたんですよ。僕はプロスケーターとして、真面目にスケートの撮影をしていたんですけどね(笑)」。ただ、そんな現状を悲観しすぎることなく、ストリートとは偶然と必然が絡み合うものというピュアな想いを表現する。「パークはやり込んだ人が上達するけど、ストリートの場合はスポットを見つけ出しただけで、世界でたった一つのトリックが完成するんですよ。どんなにスキルの高い世界のスケーターでも、僕が見つけたスポットには辿り着くことさえできない。その逆もしかりで、僕は地球の裏側にいるキッズが見つけ出したスポットでトリックを決めることはできないんですよ。もちろんスキルも大切やけど、それだけじゃない魅力が他のスポーツと一線を画する所以です。あるビルの警備員は深夜の限られた時間には見回りに来ないとか、スポットの壁が黄色だから青いシャツを合わせてたり、そこまで考えてるスケーターが好きやし、そこにセンスを感じます」。その情熱が彼を駆り立て、世界中のスポットで無数のトリックを撮り続けている理由なのだろう。

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プロスケーターや映像作家としての顔だけでなく、アパレルデザイナーなど、熱狂の比重を一つだけに傾けることなく、マルチに活躍するクリエイションの源泉は一体どこから湧き出てくるのか。それを問うた時、この日一番の笑顔を見せてくれた。「やっぱりスケートボード。仲間とスケートしてるときが一番楽しいし、いい映像が撮れた時や最新のトリックがメイクできた時は最高です。夜にパーティがあったとして、いいスケートができたかできてないかでお酒の味も変わってきますからね(笑)。スケートボードが生活の中心にあるからこそ、いろんなことができています。これからもモノ作りはしていきたいし、どんなに規模が大きくなっても初めてトリックを決めた時のワクワクした感情は忘れたくないですね」。2017年にはには最新作『EVISEN VIDEO』をリリースし日本のみならずニューヨーク、ロンドン、アジアを舞台に五ヵ国で上映会を開催。現在はファン待望の「LENZ Ⅲ」を制作中。シーンに鮮烈な変革をもたらす彼のストーリーは、この先もとどまることなく紡がれてゆく。

Shinpei Ueno
大阪府出身。スケートボードプロダクション「
TIGHTBOOTH PRODUCTION」を統括する傍ら、Evisen Skateboardsのプロスケーターとしても活動。2015年には地元大阪にスケートボードショップ「SHRED」をオープンした。8月にはアーティスト「KILLER-BONG」のコレボレーションしアパレルウェアを製作。ミュージッククリップも公開されている。

TIGHTBOOTH PRODUCTION 公式サイト

 

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Skatebording