2023.05.03

エルメスの”発想の実験室”「petit h」の奥行に触れる、大阪中之島美術館で展覧会

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HERMÈS(エルメス)」が2010年に創設したメチエ(部門)、「petit h(プティ アッシュ)」をご存じだろうか?エルメス家の6世代目パスカル・ミュサールが再創造をテーマにスタートさせ、別名エルメスの発想の実験室とも呼ばれる。レザーやシルク、クリスタル、陶器、馬の毛、金属など、他の部門で使われなくなった素材を、職人やアーティスト、デザイナーがあらゆる方法で組み合わせて、独創的で遊び心あふれるコレクションを制作している。

そんなpetit hの実験室がフランスを飛び出し、日本へと上陸。新作のコレクションとともに、その制作過程や世界観を体感できるエキシビジョンが、大阪中之島美術館で開催中だ。過去には2011年に日本で初披露され、2015年には京都での展示も実施。3度目となる今回は、petit hの活動に長年関わってきたアーティストの河原シンスケが織りなす物語とともに、その奥行きをファンタジックに紹介している。

創造力溢れるpetit h」の展示室

Portrait_validated_2petit hクリエイティブ・ディレクターのゴドフロワ・ドゥ・ ヴィリユーとアーティストの河原シンスケ

ねぶたの技法で作られた、張り子の大きなウサギが出迎える2階の展示空間。「みなさんに、私たちが普段働いているアトリエをみていただきたく、少しだけ再現しました」と語るのは、2018年からpetit hのクリエイティブ・ディレクターを務めるゴドフロワ・ドゥ・ ヴィリユーだ。中央には、大きな鯉のぼりを模したトンネルが現れ、中にはレザーやシルク、金具などといったさまざまな素材が並ぶアトリエさながらの素材庫が再現されている。

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会場構成を担当した河原シンスケは、「いつも僕は最初に物語をつくって、それを元にものづくりをします。今回は、日本の十二世紀の鳥獣戯画に着想をした物語です。日本では馴染みのある猿ですが、フランスでは珍しい動物。そうした経験から日本の代表として猿をキャラクターに据え、エルメスを象徴する馬をはじめとする動物たちがpetit hを運んでくるという物語から、内装デザインに発展させました」と説明。会場には歌舞伎などでも使われる書割を活用。柔らかな色合いと、動物たちの躍動感溢れるイラストにより、空想の世界に誘うような空間に仕上がっている。

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中央の鯉のぼりを囲むように、セラミックや陶器、レザーなどがどのような工程を経て形を変え、新しい命が吹き込まれていくのかを、実際にアトリエで幾度もトライした際に使われた素材とともに紹介。例えば、チョコレートのパッケージにつけられたマスキングテープは、水着から作られたもの。「私たちは他のメチエで余った素材を最後まで使い切りたいと考えています。そこで誰もが使っているマスキングテープになるんじゃないか、というアイデアが生まれました。petit hの楽しさは、最後まで幾度もトライアルすることで色々なことを発見できることなのです」。まさに発想の実験室と言われる所以が、よく理解できる。

小物から家具まで「petit h」の幅広さ

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2階の展示空間では、アトリエでのトライアルや過程を、そして1階ではそれらの完成品を含む、最新のpetit hのコレクションが一望できる。チャームやアルバム、鏡、ポーチ、財布といった小物から、椅子やオブジェ、ダイニングテーブルまで。パリのセーヴル店では購入できるpetit h」だが、これだけのアイテムが集まるのは珍しい機会となる。

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なかでも、「その国で受け継がれる職人技と私たちの技術とを組み合わせてものづくりをする、こうした繋がりから生まれるpetit h自体初めてのことなので、とても誇らしく思っています」とゴドフロワが語るのは、明治八年創業の日本で最も古い歴史をもつ手作り茶筒の老舗「開堂」とタッグを組み、生み出したアフタヌーンティーセット。開堂の茶筒にの持ち手にエルメスの陶器やレザーがあしらわれ、中には個性溢れる組み合わせの3段のケーキスタンドが収納できる。また中央には、河原が制作したオブジェも鎮座。今回の物語を反映させ、動物のキャラクターたちもレザーであしらわれた。

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1階は完全予約制。会期中の予約はすでに埋まっているがキャンセルが出ることも。エルメスのオンラインサイトでは一部アイテムを紹介しており、購入も可能となっている。2階の展示空間と、芝生広場ではオレンジのテントが目印のカフェは予約がなくても入場できる。

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ファンタジー溢れるpetit hの奥行を知る、またとないこの機会にぜひ足を運んでほしい。

エルメスのpetit h―プティ アッシュ

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