2021.04.14

PATEK 5236P

グリーンのノーチラス以外の新作が発表されましたが、昨今の普通の時計好きがピンとくるモデルは無かったですね。この中で注目するとすれば、勿論この5236P(インライン永久カレンダー)なのでしょう。

デザイン的には 3448のケースを多分に意識したシェイプが往年のパテック通にはグッとくる筈だし、文字盤は流行の青で、文字盤グラフィックもシンプルモダン系という事で パテックとしては最近の流れを意識したデザインだとは思うんです。

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実際に、気品のあるデザインですし、実機を見ればオーラもあるのでしょう。ですが昨今の時計界のマーケットの実情からすると、一般的に「待ち望まれていたモデル」とは違うのではないでしょうか。

ティエリの先だってのインタビューにもあった通り、彼らはステンレスのモデル(主にノーチラスやアクアノート)を全生産量の25%以下にコントロールしようとしており。それは即ち「ノーチラスやアクアノートがいかに人気が出ようと、本当のパテックの真髄はゴールドやプラチナ素材のコンプリケーションモデル達であり、そのブランディングは崩さない」という自負があるのでしょう。

しかしながら現状、売れるのはステンレスのカジュアルなモデルばかり。かつてはその人気が栄華を極めた永久カレンダー・クロノグラフでさえ定価割れしており、「ノーチラスを売って欲しければ、10万ドル以上の売れないゴールド系のモデルをたくさん買って実績を積め」と(彼らは決して口にはしませんが)顧客にプレッシャーをかけているような実情では無いでしょうか。

この状況は顧客から見れば「パテックに行っても売ってもらえるのは人気のないモデルばかりで、欲しいモデルは全く買えない」となる訳です。もちろんROLEXに行ってもステンレスのデイトナは簡単には買えない訳ですから、どのブランドも同じ状況と言えなくもないのですが、その「買えない」の度合いがデイトナとノーチラスでは次元が異なるのも事実。もしパテックが今の方針を貫くのであれば 本当に人気のあるコンプリケーションモデルを生み出すのが理想的な訳ですが、例えば 仮に5270の後継機が良いデザインだったとしても、今のマーケットの趣向が変わらない限り、かつてのような人気を取り戻す事は難しいと思います。ありていに言えば「時代が変わってしまった」という事なのでしょう。

そうなるとやはり求められるのは、ノーチラスやアクアノート以外のステンレスのスポーツモデルでは無いでしょうか。誤解を恐れずに言うならば 「パテック製のデイトナ」がマーケットの要求 と言っても過言ではありません。もちろんパテックとしては、安易にそんなモデルを出したくは無いでしょう。しかしライバル達はは何でもありの攻勢をかけてきます。チタンやセラミック製の永久カレンダーから、ひいてはステンレスのトゥールビヨンまで用意して。この追撃を果たしてノーチラスとアクアノートだけの布陣でいつまで凌げるか、事態はやや厳しい情勢にも見えます。絶対王者のパテックとしても、どこかで少し考えを変える事も必要になるかもしれません。

真に革新的なモデルは多くの場合、賛否両論の中から生まれるものです。ポルシェにしても あの時カイエンを作ってなければ倒産していたのは明らかなのですから。

Keywords:
Patek Philippe