2020.06.01

ガリアーノからスターウォーズまで V&A着物展『Kimono – Kyoto to Catwalk –』

vanda-20200529_03

 イギリス·ロンドンのケンジントンにあるVictoria & Albert Museum(ヴィクトリア&アルバート ミュージアム)、通称V&Aは、様々な時代の美術品など数百万点ものコレクションを有する国立博物館だ。ファッションに関わる企画展も多いほか、あの有名なダビデ像の実物大レプリカがあることでも知られている。そんなV&Aで2月にスタートしたのが、“Kimono – Kyoto to Catwalk –”と題された着物の特別展だ。

Text_Saori Ohara

 同展は準備やリサーチに数年かけられただけあって、表面的な着物の美しさだけでなく、史実に基いた内容や、着物を通した世界の服飾史が垣間見られる、かなり見応えのある内容だ。古くは鎖国中の17世紀初頭(江戸時代)から、オランダとの貿易で西洋世界に出会った着物。その着物がどうやってヨーロッパに浸透していき、現代どのように世界のファッション、アート、エンターテイメントに影響を与えているのかを考察する展示となっている。今回は、この展示のメインビジュアルのスタイリングにマドモアゼル·ユリアが抜擢された。パリコレなど海外のファッションウィークに着物で参加する彼女に、V&Aがインタビューを重ねたことをきっかけに、着物にもファッションにも明るい彼女がスタイリストとして起用されることとなったようだ。パリで開かれるChanelのショーに出席した時に彼女が来ていた着物も、本展のブックカタログに収録されている。

vanda-20200529_05

 メインエントランス奥のミュージアムショップを通り抜け、スカルプチャーホールを右に進むと現れるのが、“Kimono – Kyoto to Catwalk –”の特設展示室だ。入り口のステートメントの壁の脇には、ジョン·ガリアーノが手掛けたChristian Dior 2007年のオートクチュールピースが来場者を迎える。当時のプレゼンテーションで冨永愛が着ていたインパクトのある着物風アンサンブルだ。世界的ファッションデザイナーによるわかりやすい着物のインスピレーション作品が、期待を高める。その奥に広がる空間には、日本における着物の歴史、着物の構造を説明する映像、髪飾りや印籠、浮世絵や日本画などと共に、美しい着物がマネキンや衣桁(いこう)に掛けられ並んでいる。

vanda-20200529_01 vanda-20200529_06

 花魁道中で着られていたであろう豪華な色打掛(いろうちかけ)や、「バカ殿様」や「遠山の金さん」を彷彿とさせる武家男性の中正装である裃(かみしも)、歌が刺繍された粋なデザインの小袖など、古く貴重な着物がたくさん展示されているが、マドモアゼル·ユリアによればこのようなV&Aの展示方法は「かなり珍しい」という。時代を経てきた貴重な着物は生地も痛みやすい状態が多く、日本であれば損傷のリスクを避けるためマネキンに着せるということは滅多にないのだが、衣桁に掛かっているだけでは、着物に馴染みのない文化圏の人には着用イメージがわかない。そこで細心の注意をはらいながら、あえてマネキンに着せているのだろう、とのこと。こういった展示方法で貴重な着物が見られるのも海外ならではだと教えてくれた。さらにマネキンには、着物に合わせた当時の髪型も再現されていてるのだが、それも時代劇で見るようなカツラではなく、ハードチュールのような軽さのある生地で作られている。マドモアゼル・ユリアは、こういった細かいプロップスにも、V&Aのセンスが感じられると話した。

vanda-20200529_07

 次のセクションには着物の生地で作られたドレスや、着物を着る西洋の人々の様子など、着物だけでなく絵画や写真、洋服など、着物にインスパイアされた西洋文化の展示品が現れる。また逆に、国際交流をはじめた日本が、西洋文化や産業に影響されて作った着物も。中でも目を引いたのは、大正~昭和にかけて作られた戦車や車、戦闘機、戦艦などが描かれた男性·男児用の羽織りや襦袢(じゅばん)、新生児のお宮参り用の着物だ。世界大戦を目前にしていた時代の尊王攘夷感を着物を通して感じ取ることができるのは珍しい機会かもしれない。

vanda-20200529_02

 そして展示終盤のセクションに突入するのだが、ここからは一言で言えば”キャッチー”だ。X Japan Yoshikiが手がけるYoshikimono、ビョークの名盤『ホモジェニック』のジャケットに登場したAlexander McQueenによる衣装(あれがCGではなく実際の衣装だったことに驚き。撮影はニック·ナイト)、マドンナが“Nothing Really Matters”のミュージックビデオで着ていたJean-Paul Gaultierの赤い着物風アンサンブル、フレディー·マーキュリーの私物の着物、黒澤映画『椿三十郎』で三船敏郎が来ていた袴、さらには『スター·ウォーズ』シリーズのオビ=ワン·ケノービとアペイラーナ女王の衣装などなど、他にも著名人や有名映画、世界的デザイナーに関連した展示品が一堂に会している。 V&Aだからこその圧巻のラインナップと言えそうだ。また、着物をベースにしたアート作品や、原宿あたりで見かけられそうな「珍」な着物の着こなしなど、現代の独特な着物の進化も捉えられる。着物がこれほどまで長く、そして今でも多くの芸術家、クリエイターを魅了しているのだと改めて感じられるはずだ。

vanda-20200529_08

vanda-20200529_04

 着物はそのユニークさ故、外国人からは理解しがたいコスチュームのように考えられがちだ。しかし同展は、そのミステリアスな魅力を丁寧に説き明かすとともに、着物が欧米文化に昔から幅広く受け入れられてきたこと、実は想像以上の汎用性を持ち、現代もなお世界中にインスピレーションを与え進化し続けていることを気づかせてくれる。現在コロナウイルスの影響によりV&Aは休館の体制をとっており、このKimono: Kyoto to Catwalk展も延期となっているが、先日、同展のキュレーターツアーが公開された。5篇のツアー映像を通して、V&Aが作り上げた圧巻の展示内容を是非、覗いてみてほしい。

Keywords: