ジャンヌ・シニョールと藤原ヒロシに聞く、2作目のL/UNIFROM×FRAGMENT
Photo_Momo Angela Text_Mio Koumura
フランスのキャンバスバッグブランド「L/UNIFROM(リュユニフォルム)」のデザイナーJeanne Signoles(ジャンヌ・シニョール)が3月、藤原ヒロシとのコラボレーションバッグのローンチに合わせて来日した。日本を訪れるのは丸の内の東京旗艦店がオープンして以来、約3年ぶり。フィジカルな対面も同じく3年ぶりのジャンヌ・シニョールと藤原ヒロシに話を聞いた。
待望のコラボバッグ
ローンチまでの3年間
ふたりの初めての共作は、藤原が手がけた伝説的ショップ「the pool Aoyama」が存在していた2014年に遡る。ジャンヌ・シニョールは「L/UNIFORM」を始めたばかり。パリに訪れていた藤原と友人を介して知り合い、ブランドを伝えるきっかけを得たという。当時を藤原は「(ジャンヌは)フランスの綺麗なお嬢さんという印象。”高級キャンバス”って面白いと思ったんです」と振り返る。それから親交を深めたふたりが、2度目のコラボレーションを始動させたのは約3年前。「絵型は2年半前にはできていて、最初のサンプルもそのタイミングで上がっていたんじゃないかな。2~3週間前に『バッグどうなりました?』とジャンヌと連絡をとりあったばかりです」。
世界的なコロナウイルスの流行も要因のひとつだが、この3年の期間にはバッグの開発はもちろん、「どうしてもローンチは一緒に」というジャンヌの強い意向が大きかったという。「まず、L/UNIFORMはコラボレーションに積極的なブランドではありません。私はコラボレーションで仕上がる物ではなく、互いに異なる文化や生活スタイル、背景をもつ者同士が、クリエーションを共通項にひとつの作品を作り上げる過程に興味がもっています」とジャンヌは言う。
『No129』
サイドの持ち手へのこだわり
藤原が提案したのは何でも入れられてへたらない、デイユーズできるバッグ。そのデザイン画をもとに、ジャンヌはもともと旅行用カバンとして作ったNo54のビッグバッグをベースに、通常二枚仕立てのキャンバスを一枚仕立てにすることで重さを軽減させている。
「重い荷物を入れても毎日使えるバッグにするには、バッグ自体をもっと軽くする必要があり、底の中敷も外して一枚で仕立てることにしましたが、型崩れしてしまっては意味がない。パターンやステッチを工夫することで、自立でき、重さやタフな使用にも耐えられるNo129が実現しました。」
また、ショルダーバッグとして持ちやすい長めのストラップに加え、藤原のオファーを受けてサイドに短めのストラップが横付けされているのも大きな特徴だ。藤原が絶妙な短かさにこだわった指先が数本程度入るそのストラップで持てば、バッグのスタイルが一変する面白い仕掛けとなっている。「パッと見、『ここを持ってどうするのだろう?』と思うのですが、持つと手の収まりがよく、バッグを持った姿がエレガンスに決まります。指先が入ってしっかりと握れる絶妙な長さで、こういう驚きと使い勝手が共存するデザインは素晴らしいです」とジャンヌ。
コットンとリネンで織られたアイコニックなナチュラルカラーのキャンバスには、Fragment designのロゴがプリントされ、同色のコットンテープのディテールが際立つ。ベーシックなポピーレッド、ディープブルー、
「ジャンヌのチームにいる日本人スタッフのアドバイスから、不吉なナンバーを除いたそうでNoは50まであります。素数にするのも面白かったかもね」と藤原は言いつつも、「みんなにとっては少し大きいかもしれないけれど、僕にとってはちょうどいいサイズのデイリーバッグ。毎日使っています」と話した。
「L/UNIFORM」のものづくり
ディテールに共鳴するコラボレーション
生地から縫製まで、「L/UNIFORM」ではフランスのカルカッソンヌとポルトガルのアトリエの職人が連携してものづくりを行っている。新しいバッグを一型完成させるためにかかる時間は、最低1年。なかには2年以上の時間をかけるものもあるという。
最初の”バッグのサイズ決め”が重要なポイントで、カルカッソンヌのアトリエでミリ単位でそのサイズ感を入念に調整する。定まったら、プロトタイプを紙で作った後、カーキ色のキャンバスでサンプルを制作。
「カーキのキャンバスが最も縫製が難しいため、それがうまくいけば、(オリジナルカラーの)ベージュのキャンバスで作ることもできます。ただ1点仕上がるだけでは意味がないので、アトリエが同じものを10個作ることができるかをテストします」。
合格したバッグの設計図は、責任者がポルトガルの工場に持参し、再度想定通りに再現できるか、数を作ることが可能かを判断する2回目のテストが行われる。「まずは2mmで統一しているバッグのステッチングを見ます。3mmになっているものが見つかれば、それが起こった原因を探ります。生地と生地が重なり合う箇所を今のマシンでは縫うことが難しいのか、それとも単に人為的なものなのか。場合によってはマシンを1から開発し直すこともあるんです」。ミリ単位の追求と同時に、強度や耐荷重なども厳密に品質確認を行ったのちに、ようやく日の目を浴びることになる。
そうしたディテールへのこだわりは、彼女が選ぶコラボレーション相手にもシンクロする。パリ旗艦店の建築を手がけた片山正通とのエピソードをジャンヌが話してくれた。「パリの施工会社に設計図を納品して翌日から工事を始めることが決まったんですが、翌朝集まろうと連絡をいただいたんです。そこで『一晩寝て考えたのだけど、これ全部反転にさせてほしい』と言われました。理由を聞くと反転するとカウンターの幅に1cmの余裕が生まれるということ。それは店のスタッフにとってもお客様にとってもメリットのあることですから、急いで施工会社に伝えると『1cmで何を言っているの?!』と驚かれてしまったのですが、折れずにお願いしてショップが仕上げることができました」。
「No129」の小さな持ち手同様、そうした根底にある共通項を彼女は自然と察知し、ともにものづくりをすることで「L/UNIFORM」の世界観に広がりを生んでいる。「互いに感じるものがあるはずです。私はヒロシさんの職人へのリスペクトを感じていますし、国や言語、文化を超えて同じ姿勢の方と取り組むことはすごく心地よいです。また、私の中に存在してなかったものごとを発見したり、見せてもらったりをエクスチェンジが生まれることが何よりコラボレーションの素晴らしさだと感じています」。
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