天皇制や新しい資本主義、SDGs…まだまだ続く 藤原ヒロシvs新谷学〝究極の雑談〟vol.2
ウェブマガジン「JBpress autograph(オートグラフ)」とのコラボレートした、藤原ヒロシと新谷学による”忖度ナシ”の対談企画。後編では、皇室問題や天皇制、宗教、宇宙、そしてSDGs…….話題はさらなる深淵へ。止まることのない〝究極の雑談〟を前回に引き続き、文藝春秋社屋を舞台に写真家・立木義浩が撮り下ろした写真とともにお届けします。
Photo_Yoshihiro Tachigi Edit&Text_Eisuke Yamashita、Mio Koumura
■藤原ヒロシから見た「現在の天皇制」
藤原 ちょっと偉そうな話ですが、今って、ちょっと炎上したらすぐに削除したり、謝ったりというのが多いですよね。炎上恐怖症というか。
新谷 そういうやり方は、自分たちの価値そのものを貶めることになっちゃう。そんな覚悟のないコンテンツにお金が払えるか、と思われるのが関の山です。だからこっちは炎上したら、真摯に答える。何を考えて、どういうプロセスでつくったのかを丁寧に説明するんです。これについては月刊も週刊もなく、全メディアにとって大切なことだと思いますね。
藤原 そもそも誠意のない謝罪ほどひどいものはないですからね。芸能界でも政界でも、形だけ謝りゃすむと思って。
新谷 藤原さんは今まで炎上の経験は?
藤原 あまりないですけれど、昔の千円札の写真をInstagramにアップしたら、韓国で炎上しました。
新谷 ああ、伊藤博文の(笑)。それに対しては何か対応したんですか?
藤原 いや、なにも。だって僕のノスタルジーだもん(笑)。
新谷 発信するうえで、なにか気をつけていることはあるんですか?
藤原 ちょっとありますよ。政府なり国家なりを批判するのはいいけれど、個人的なものを傷つけたりはなるべくしたくないな、と思ってます。
新谷 突然ですが藤原さんは、眞子さんの結婚とか皇室の問題はどう見ているんですか(笑)?
藤原 いや、かわいそうだなあ、と思って。しかも女性ですし。
新谷 お相手については?
藤原 キャラクターとして面白いですよね。年末の『笑ってはいけない』に出てくれないかなあ、と思って(笑)。でも一般人だし、すでにふたりは皇室から離れたわけですからね。
新谷 また炎上するかもしれませんが(笑)、そもそも天皇制については賛成なんですか?
藤原 昔はどちらかというと、いらないんじゃないか、というスタンスでした。
新谷 パンクですもんね(笑)。
藤原 でも今は、あってもいいんじゃないかな、と思っています。要するにデメリットがあまり見つからない。
新谷 メリットとは?
藤原 メリットは……日本人の心を穏やかにしてくれる(笑)。
新谷 まさかの模範回答じゃないですか(笑)。でも、「統合の象徴」というのは、きわめて曖昧な表現ですよね。
藤原 これをいうとまた炎上するかもしれないけれど、昭和天皇を象徴と捉えてよいのか否かについては、議論の余地があると思っています。ただ、現在の天皇制については、本当に象徴になったんだと思いますね。
新谷 今回の問題では、その象徴という立場の曖昧さ、難しさが露呈しました。要するに象徴天皇制を持続可能なものにする唯一の支えとは、国民からの人気なので。そうじゃない人が出てきてしまった場合、またはそれが続いてしまった場合、今みたいな形で続くかどうかは深刻な問題で、まさに「文藝春秋」が取り組むべきテーマなんです。
藤原 そうなったら続かないですよね。これもシステムの老朽化というか、世代交代がうまくできなくなっているという問題のひとつかな。
■二人の宗教観と宇宙考
―英国王室みたいな形で存続するケースもあるのでしょうか?
新谷 やはり皇室と王室の違いは大きいですよね。神事を執り行うわけだから。そういえば藤原さんは伊勢のご出身ですが、お伊勢参りとかも行くんですか?
藤原 それほど行かないし拝むこともないけれど、好きは好きですよ。伊勢神宮は神というより自然崇拝に近いので。でも、パワースポットとかは全く信じていません。家の近所に伊勢神宮があったから、子供のときに親戚と行くのが嫌でしょうがなかったです。
新谷 無神論者なんですか?
藤原 どちらかというとそうですね。新谷さんは?
新谷 何かを強烈に信じているということはないけれど、かつて「週刊文春」の編集長時代に3ヶ月間の休養処分を受けた時に、その後半の10日くらいをかけて、熊野古道を歩きました。語り部のおじいさんと一緒に熊野三山を全部まわって、お札をもらったりして。
藤原 熊野那智大社はいいですよね。
新谷 熊野という場所は蘇りの地でもあるし、聖俗を問わずすべてを受け入れる場所であるという歴史に、感じるところがあって。その後復帰したら、すぐに完売連発みたいなことになったんです。
藤原 それで神を信じちゃったんですね(笑)。
藤原 それが宗教に結びつくのかはわかりませんが、フォースの覚醒というか。ここで自分がリセットできた経験は、大きかったですね。
藤原 あれはどうですか? 宇宙(笑)。
新谷 え〜、それほどでもないかも……。藤原さんは行きたいですか?
藤原 いや、行きたくないですね。宇宙酔いしそうだし。キオスクとかがあったら行きたいですけれど(笑)、何もモノが買えないじゃないですか。仮想空間みたいに感じそうで。
新谷 私なんかはただのへそ曲がりというか、みんなが語り出すと行きたくないと思っちゃうところがあるので。
藤原 でも今回、前澤くんが行ったことに対しては、僕は素晴らしいと思います。本当に実行するわけですから。
■”新しい資本主義”は本当に可能か?
新谷 総理大臣が変わったことについてはどう捉えますか? そもそも興味あります?
藤原 もちろんありますよ。
新谷 ポジティブ、ネガティブでいうと?
藤原 今回はどちらでもないですね。岸田さんのキャラクターから言っても、あまり大きな変化はないでしょうし。そもそも、トランプからバイデンに代わったったアメリカだって、それほど変化は起きていないですよね。対中政策にしても、TPPにしても。
新谷 もちろん両国とも変わってはいるんですが、どちらの権力者も自分のやりたいことを自由にやれない環境にありますから、うまく物事を前に進めにくいんですよね。ただ、もうちょっと細かく見ていくと、自民党におけるタカ派の清和会から、岸田さんが率いるハト派の宏池会へ、という流れはあります。『文藝春秋』の2月号で、「次の総理、5年後の総理」という政治記者123人へのアンケートを特集しているのですが、ここで林芳正さんが選ばれたことも、その現れかもしれません。この方は今の外務大臣ですが、日中友好議連の会長も務められた、ハト派の代表格ですから。
藤原 安倍さんはもちろん歓迎していないんですよね。
新谷 かなり危惧というか、力をつけ過ぎることは警戒しているでしょうね。岸田首相自身は〝新しい資本主義〟というテーマを掲げて、新自由主義からの脱却や富の再分配を目指していますが、安倍さんのようなお目付役もたくさんいるから、なかなか思うに任せないところもあるんですよね。
藤原 行き過ぎなければの話ですが、僕も富の再分配は必要だと思います。
新谷 新自由主義からの脱却は世界的な潮流にもなっていて、多くの学者がそういう発信をしています。若手哲学者である斉藤幸平氏の『人新生の「資本論」』もベストセラーになっていますし、今年のひとつのテーマになるんでしょうね。
藤原 でも、それをどうやって円滑に進めればいいんでしょうね。たとえお金持ちが吐き出しても、本当にちゃんと分配できるか、という問題もありますし。
新谷 そうですね。アメリカでは、そもそもハト派である民主党の支持層がエスタブリッシュメント中心なので、そのエリート政治からこぼれ落ちた人々が超タカ派のトランプを支持してしまう、というねじれ現象が起きています。日本でも同様ですが、メディア不信の理由はそこにもあるでしょうね。今まさに困っている人々にとって、自分たちの味方だと思えないメディアが増えていると、その傾向はさらに助長されてしまうでしょう。
藤原 それは感じますね。
■「今、僕が中学生だったらビットコインを買ってるかも」
新谷 最近は、わかりやすく未来への希望を語れる若い世代も少ないような気がするんです。私の長男は大学三年生になるんですが、むしろ失敗を恐れるような気持ちが強いですから。
藤原 どんな感じですか? SDGsとか、考えてますか?
新谷 それもありますが、ワークライフバランスとかを一生懸命考えていて、私からするとどうしてこの歳でそんなに自分の人生まとめにかかってるんだよ、と思っちゃいますね(笑)。
藤原 投資とかしてますか?
新谷 ああ、やっているかもしれない。興味は持っています。
藤原 僕が仮に今中学生だとしたら、きっとビットコインを買ってるんじゃないかな。買い物するよりも、それが増えるほうが楽しくなって。
新谷 それはぜんぜんパンクじゃない(笑)。まあ、世代でひとくくりにするのはナンセンスですけれど、今は若い世代こそ保守的で、自民党支持者が多いですから。逆らうことは悪、みたいな。
藤原 逆らうことって、矛盾にぶつかりやすいんですよね。SDGsを声高に叫んだら、「じゃあお前この先2年洋服買うな」みたいなことを言われるので。
―それはまさに、ファッション業界が直面している悩みかもしれません。
藤原 これ一着買ったら10年持ちますよ、というのを毎年売っているわけだからね。
新谷 今の言論空間って、すぐにどっちが正しいかという議論になっちゃうから難しいんですよね。全員が納得する意見なんてありえないのに。だから最近、”論破王”みたいな口先ばっかりの人間が評価されることに、すごく違和感を感じています。
藤原 前も言ったかもしれませんが、僕はメディアとは、ある程度一方通行でいいと思っているんですよ。言われたことに反論するよりも、もう一方通行で、強い発信をするほうがいいと思います。
■SDGsギャングに騙されるな!
―さっきからちょくちょく話題にのぼるSDGsについては、どのように考えていますか?
新谷 本当に太陽光や風力だけで今の電力消費を賄えるのか、原発を稼働させなくていいのか、ということを本当に考えないといけない時期だと思います。これからきっと電気料金はどんどん上がっていくし、CO2排出を懸念して火力を止めれば、当然停電リスクも生じてくるわけで。
藤原『北の国から』みたいに、「夜になったら寝るんです!」の世界ですね(笑)。僕はSDGsに関しては反対じゃないですが、行き過ぎると何事も矛盾にぶつかりますから。最近はビジネス的なうまみも出てきているから、SDGsギャングが多くて大変ですよ。
―SDGsギャング!
藤原 今パッと出てきた言葉なんですけど(笑)。
新谷 太陽光をやると補助金がドバッと出るみたいな、詐欺まがいの話が山ほどありますからね。私はとあるシンポジウムに出たときに同じ質問をされたので、「SDGs自体は大事なことだけれど、そこにゼニの匂いを感じて金儲けしようとするまがいものが多いので、それらを見極めて片っぱしから撃ち落とすのが『文春』の仕事です」と言いました。
藤原 すごいですね。
―藤原さんのもとにも、そういう仕事の依頼は来るんですか?
藤原 こういう素材を使ってものをつくって、という依頼は多いけれど、国によって基準が違うからややこしいんですよね。
新谷 地球っていずれにせよ、50億年くらいでなくなるわけですよね。だからその健康寿命をどれだけ保つか考えるときに、果たして延命装置まで付けるべきなのか、ということですよね。「カルペディエム(1日の花を摘め)」という言葉のように、たまには美味しいものやお洒落な服といった自分へのご褒美もあげながら、楽しい人生を過ごす。延命することだけを目的にしたら、生きていても甲斐がないですから。
藤原 〝次の世代のために〟ってよく言いますが、次の世代は次の世代で考えるし、それはある意味彼らの権利でもあると思うんですよ。僕らよりもずっと賢いんだから、そんなこと言うなんておこがましいよ、というほどのものになってほしいですね。
新谷 なかなか壮大なテーマになってきましたね(笑)。
■「文藝春秋」と藤原ヒロシのコラボレーションは実現するか?
――2022年はどんな年になりそうですか?
藤原 どうでしょう。僕は今の生活に満足していて、海外に行きたいとかいう思いはないですね。だからコロナウィルス次第で世の中は変わるんでしょうが、僕のスタンスは変わらないですね。でも、『文藝春秋』とはなにかやってみたいです。
新谷 私はこういうメディアをご覧になっている皆さんの間で、『文藝春秋』を小脇に抱えているのがお洒落、みたいなムーブメントを起こしたいな。
立木義浩 いっそのこと、そのままポーチにしちゃったら(笑)?
新谷 さすが巨匠・立木さん。それもいいですね(笑)
藤原 さっきお話しした、ニューヨークの日曜のカフェみたいな感じですね。たとえば何ヶ月かに1回、表紙やサイズすら変えちゃって、特別な号をつくるとか、できないですか? もちろんロゴは変えずに、面白かった記事をより抜いたベスト・オブ文藝春秋に、新しい記事もプラスして。
新谷 なるほど、それは面白い。もちろん藤原ヒロシのキュレーションでね。やっぱりそういう自由さがないと、雑誌は面白くないですから。ではさっそくこの号もご覧になってください。「ヤクザと運動家、二つの顔を持つ男」という記事なんですが……。
―やっぱり2022年もパンクと任侠は続くわけですね!
藤原 でも今日は天皇制認めちゃったからな(笑)。
新谷 「衝撃告白! 藤原ヒロシ、天皇制を支持」。文春的には一本記事がつくれますね(笑)。
藤原 天皇制は認めても、国旗が見える仕事はしませんよ。
新谷 国旗が変わればOKなんですか?
藤原 ナシですね。でも、ユニオンジャックならいいかもね(笑)。
新谷 女王陛下のためならひと肌脱ぎます、みたいな(笑)。
>>vol.1はこちらから
■2021年の「ブランド論」対談
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