BMW 850i
1989年に発表された初代8シリーズ(1990-1999)は、当時大きな反響を呼びました。それまでBMWのクーペといえば6シリーズ(E24)のような「あくまでセダンを2ドアにしたモデル」だったのですが、この8シリーズは誤解を恐れずに言えば「フェラーリルックのBMW」だったのです。
BMW 850i (E31)
もちろんフェラーリ・ルックと言っても、それは「リトラクタブルヘッドライトの典型的スポーツカースタイル」という意味であり、駆動方式はフロントエンジンのFRだったし、デザインディティールも非常にドイツ車的なアプローチで、BMWがフェラーリを作ったらこうなるという感じの、まあ言うならば「BMW製のFerrari 456」のような存在だったと言えるでしょうか。
BMWとしてはこのスポーツカールックにキドニーグリルをフィットさせる上で、1978年にBMW M1のデザイン手法を用いてきました。従来のBMWの文法通りキドニーグリルをヘッドライトの同じ高さの中央に置くのではなく、キドニーを思い切り小さくして、ヘッドライトより低い位置、すなわちノーズ先端に置くというデザインですね。これは正確に言えば、ジウジアーロがM1のデザインをする時に、すでに存在した 1972年のコンセプトカー BMW TURBO のノーズデザインを復活させたものでした。
1978 BMW M1
1972 BMW TURBO
1990 BMW 850i
850i ではこのコンセプトをさらにモダナイズするため、小キドニーを 正方形に近いぐらい小さくし、その中は縦ルーバー、サイドには横ルーバーとしてブラックアウト。そしてさらに外側にはフォグランプを配して、非常にバランスの良いデザインにたどり着きました。これだけキドニーグリルを小型化してもBMWだと、一目でわかる良いデザイン仕事だったように思います。
さて、現代のBMWですが デザインについてキドニーグリルが重荷になっている感じにも見えますね。今回のM3/M4 では批判を覚悟した上で、異常に大きなキドニーグリルを採用してきました。M3という特殊なモデルですからこれはこれで良いのかもしれませんが、BMWの本来のエレガンスとはやはり少しかけ離れている気もします。
もちろんこれはそれだけではなく、マーケティング上の観点から「ブランド認知の徹底と反復」が重視される時代ですから、時代の要請という事情もあるのでしょう。しかしそれにしても、顔のど真ん中に絶対に2つグリルを並べなくてはいけないという決まり事は、デザインの自由度を大きく下げている訳で、デザイナーは苦しいのではないでしょうか。今こそ、この初代8シリーズのような解釈をヒントに 新世代のキドニーグリルのあり方を示すような革新的デザインに期待したいところです。
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