The Rolex Report Season 2

歴史的瞬間の到来

歴史的瞬間の到来

Season1 でお話ししたような経緯で、ヴィンテージロレックスを取り巻く環境は新しい次元を迎えました。そして 2017 年 10 月に運命の日を迎えます。NY のフィリップスに驚くべき 1 本の時計が出品されるとアナウンスされました。それは俳優ポール・ニューマン本人所有の 6239 ポールニューマンモデル。そう、あの有名な、ポールニューマンの写真の腕に巻かれていた、あの伝説の個体がオークションに出ると言うのです。この時計のオークション出品は、まさに PHILLIPS が成し得た歴史的な大仕事だったと言えるでしょう。

それまでの腕時計の史上最高落札額は 2015 年の PHILLIPS オークションにおけるパテックフィリップの 5016A の特注ブルー文字盤で 7,300,000 CHF (邦貨 9 億円) でした。今回、この伝説のポールニューマンの個体がそれを超えられるか、世界の時計ファンの興味はその 1 点に集中したのです。そして結果は 17,752,500 USD (邦貨 20 億 3,000 万円) という、腕時計史上最高額を大きく塗り替える金額で落札。それは 1 本の ROLEX の腕時計の価格が、全てのパテックフィリップよりも上に立った歴史的瞬間でした。

【fig.10】PATEK PHILIPPE Ref.5016A-010
【fig.10】PATEK PHILIPPE Ref.5016A-010
2015 年の PHILLIPS のオークションにて 7,300,000 CHF (邦貨 9 億円) で落札。このオークションのために特別に製造されたステンレス製の世界に 1 本のモデルで、特注のブルー文字盤。パテックフィリップのグランドコンプリケーションは通常ゴールドかプラチナ製ケースしか存在しないが、時々スペシャルモデルとして、敢えて数本だけステンレスのケースで特別製作されることがある。その中でもこれは特別な企画であり、世界最高額を演出するために作られたモデルと言えなくもない。
【fig.11】俳優ポール・ニューマンと彼のデイトナ 6239
【fig.12】俳優ポール・ニューマン本人所有の 6239
【fig.12】俳優ポール・ニューマン本人所有の 6239 が 2017 年 10 月の NY の PHILLIPS で 17,752,500 USD (邦貨 20 億 3,000 万円) で落札。これは腕時計史上最高額で現在でも更新されいない金額。本人がいつも好んで使っていた独特のスタイルのレザーストラップと共に出品。この影響で6239のポールニューマン全体の相場も上昇した。

そして 5 年ぶりのデイトナだけのオークション

そしてこの 5 月、ジュネーヴにおいて PHILLIPS で 5 年ぶりの DAYTONA だけのテーマオークション「Daytona Ultimatum」が開催されました。勿論、オークショニアは オーレル (Aurel Bacs)、出品リストのキュレーションはプッチ (Pucci Papaleo)、撮影は Fabio Santinelli という集大成のような布陣です。かつて 5 年前の 2013 年にクリスティーズにおいてデイトナだけのオークション「DAYTONA LESSON 1」があったのですが、その時はこのオークションを境にデイトナの相場が一気に高騰しました。ですから今回も当然、マーケットはこのオークションで、デイトナの価格が新たなステージに移行するのではと期待したわけですね。さて、その結果はどうだったのか。ジュネーヴでの前後のいくつかのオークションも含めて注目のロットをリポートします。(DaytonaUltimatum のロットに関しては Fabio Santinelli の写真)

【fig.13】「DaytonaUltimatum」の会場
【fig.13】「DaytonaUltimatum」の会場
ジュネーヴの “Hotel La Reserve” の大きな庭園に特設の豪華テントが設営され会場となる。壇上中央に Aurel。中央に観客が座り、左右には電話入札を担当するフィリップスのスタッフが並ぶ。オーレルは会場のどこに有力入札者やトップディーラーが座っているかを完璧に把握しており、時には目配せしながら場を支配する。この辺りの駆け引きを見るのもオークションの楽しみのひとつ。
【fig.14】Lot.8 : 6265 WG “THE UNICORN”
【fig.14】Lot.8 : 6265 WG “THE UNICORN”
世界に 1 本だけ製造されたホワイトゴールド製の 6265、通称「ユニコーン」。シリアルは 2.87 で Mk1 pusher を搭載。PHILLIPS の時計オークションは大抵、ハイライトの個体を Lot8 に持ってくるのが常ですが、今回はこのホワイトゴールドのデイトナでした。現行モデルと違い、手巻きデイトナにはホワイトゴールドのモデルは基本的にありません。この特別に作られた個体は、ロレックスファンにその存在は知られていましたが、誰も実物を見たことがないので、ユニコーンと呼ばれることに。コレクターなら 6263 だったら良かったのに、と思わなくも無いですが、それだとベゼルがプラスティックになってしまうので、よりプラチナ化できるという意味で 6265 になったのかもしれません。その希少性により 5,937,500 CHF (邦貨 6 億 5,000 万円) という高値をつけました。
【fig.15】Lot.32 : 6240 “NEANDERTHAL”
【fig.15】Lot.32 : 6240 “NEANDERTHAL”
人類の祖先のひとつであるネアンデルタールと命名されたモデル。ケースは 6240 でシリアルは 1.43。ポールニューマンのプロトタイプとして作られた文字盤と考えられており、量産には至らず、恐らく販売もされていない文字盤と考えられています。ただし文字盤の材質やプリントから製造された年代がほぼ特定できており、それに矛盾しないケースが 1.4 の 6240 という訳でしょう。ポールニューマンが作られ始めた時期よりも少し前にあたり、ポールニューマンのプロトタイプというストーリーにも合致するという絶妙なシリアルです。これも Pucci がその存在を認めたプロトタイプのひとつですね。もともと夜光はなく、デザインは ROLEX ロゴのみというシンプルさで、ポールニューマンのソロとも呼ばれている時計。文字盤のコンディションは決して良くはないですが、何せ世界に 1 本の個体ですから、仕方のないところかもしれません。こちらも 3,012,500 CHF (邦貨 3 億 3,200 万円) という記録的な落札でした。
【fig.16】Lot.14 : 6263 Oyster Down PN mk1
【fig.16】Lot.14 : 6263 Oyster Down PN mk1
ステンレスのモデルの中で、最も高価なポールニューマンとして知られるオイスターダウンの Mk1 モデル。スクリュープッシャーを搭載するオイスターモデルのデイトナ 6263 には白のポールニューマンしかないと昔は考えられていましたが、実はごくわずかだけ黒ポールが存在。その黒文字盤は表記が通常と異なり OYSTER の文字が一番下に配置される (厳密には他にも Black Ghost と呼ばれるモデルも存在) ために通称 Oyster Down (イタリアでは OysterSotto) と呼ばれます。この文字盤は昔は 6240 に入っていると考えられた時期もありましたが、いまでは適合ケースは 6263 のシリアル 2.08-2.20 という認識が一般的。このレンジのケースは少なく、文字盤と共にケースの稀少性が非常に高いと考えられています。今回の個体はデイトナの書籍に掲載されていた個体そのもので、シリアルは 2.08 と理想的ケースに入っておりコンディションも良く、期待通りの 1,662,500 CHF (邦貨 1 億 8,300 万円) を記録しました。
【fig.17】Lot.27 : 6263 Red Khanjar
【fig.17】Lot.27 : 6263 Red Khanjar
オマーン軍のために作られたデイトナで、彼の地の伝統的な短剣 Khanjar がデザインされており、通称 "6263 Khanjar” と呼ばれます 。人気の理由は希少性はもちろんですが、やはりそのデザインでしょう。中央上の位置のカンジャーロゴを入れるためにROLEX OYSTERの文字も上にスライドさせる等、実は非常に凝った作り。同じ中東系のデイトナには UAE 軍に作られたイーグルというモデルもあるのですが、イーグルにはシルバー文字盤しかなく、このオマーンデイトナは黒文字盤も金無垢ケースも存在し、さらにカンジャーロゴにも赤と緑があるのでバリエーションが豊富。中でも今回のブラック文字盤に赤カンジャー が最も人気の組合せで、こちらも1 ミリオンを大きく超えた 1,212,500 CHF (邦貨 1 億 3,300 万円) で落札。
【fig.18】Lot.24 : 6241 Paul Newman “JPS”
【fig.18】Lot.24 : 6241 Paul Newman “JPS”
金無垢の黒ポールニューマン、通称 JPS。イギリスのタバコの JPS と同じ金 x 黒の配色が名前の由来。金のポールニューマンの中で、唯一 JPS だけが外周とインダイアルがゴールドになる訳ですが、それにより光沢感が強調され、他のポールニューマンと異なるオーラがあるのが JPS の特徴。ここ数年の大きな傾向の一つとして、金無垢のポールニューマンの価値が昔に比べて一気に高騰する傾向が見られました。理由はいくつかありますが、やはりオークションハウスが出品を受けるポールニューマンの鑑定基準が厳しくなった事によって、金無垢のポールニューマンの数が非常に少ないという事が改めてわかってきた事が、大きいのではないでしょうか。また近年、ブレスだけでなくレザーストラップをデイトナに合わせる事が人気となり、金無垢モデルも革ベルトを合わせることで、ファッション的にも取り入れやすいと考えられ、人気が高まった部分もあると思われます。その金無垢のポールニューマンのうち、JPS は非常にレアで数が少なく、今回の個体は全体的に素晴らしいコンディションの個体で 912,500 CHF (邦貨 1 億 72 万円) という高額落札に。(3 に続く)

written by *Visionary Tokyo