New Crown sedan
新型クラウンのセダンがついに発売しました。先行して発売されたクロスオーバーでクラウンのイメージを打破することにまずは成功したトヨタでしたが、今回は問題のセダンですね。デザインチーム に求められたことは、伝統的なクラウンのイメージ(=いわゆる昭和中年男性的なもの)を確実に継承しつつも、それをどう現代のモダンデザインに落とし込むかという事だったと思います。かつてクラウンが 90年代までは「日本人憧れの車」であったことは間違いありませんが、この10年間はそのイメージが時代に合わなくなり 輝きを失いつつあったのも また事実でしょう。誤解を恐れずに言うなら「負の遺産」をどう再解釈し、現代のセダンの ワールドスタンダードの外観デザインとして構築するか、この1点につきると思います。
フロントが最も色濃くクラウンのDNAを残しているセクションだと思うのですが、伝統とも言えるグリルを縦基調にリデザイン。しかもそれを中央の高さに置くのではなく、ライトよりやや下からバンパー下端までに配置。これ自体は近年ではAudiが先鞭をつけた手法ですが、左右ライト間には薄いミニグリルのようなものを配置し、その直下からバンパー最下部までをメイングリル的に扱ったのは実はちょっと新しい。つまりこの大きなグリルは明らかにフロントグリルとしての役割を与えられているのですが、実はこれ 位置的には ロウワーグリルなんですね。
参考までにAudiのグリルの変遷。右下のC8のような手法ですが、アウディは上に大きなフロントグリルで、下には小さいながらロウワーグリルがある一般的な配置。今回のクラウンは逆で下側のグリルを大きくしている訳です。
そしてもう1つ興味深いのが「そのクロームの縦線をグリルの下端まで伸ばさずに 消滅させ、最下部はその奥のレイヤーの格子状部分だけを見せる」という非常に凝ったデザインにしてきました。写真の矢印の部分で縦線を終わらせた事で、全体に軽さが出ているし、「それより下はバンパーグリルだよ」と見ただけで理解できる上手いアイデア。これは今まであまり見たことがないデザイン処理で、このグリルに関しては相当に デザインを練ってきた感じが窺えます。恐らくパーツ代もかなり高価でしょう。路上駐車時に ちょっと接触しただけで破損する部位に こんな高価なパーツを配するのは顧客のためにならない、と以前のトヨタなら 絶対に採用しなかった事でしょう。
サイズは全幅1,890 x 全長5,030 mmで、大きさはEクラスを少しだけ長くした感じ。全体のフォルムで言うと、リアはセダンなのにハッチバック風に見せていたりと、クロスオーバーほどでは無いにせよ どうしてもやはりポルシェのパナメーラの影響下にはありますね。そう言う意味では パナメーラはここ15年ではセダンの新しいデザイン手法を提示した(ただし売上が伴うかは別の話)と言っても良いのでは無いでしょうか。ただそのパナメーラも2009年発売の初代以降は、全く新しいデザインアイデアを生み出せないままリファインを重ねただけではありますが。今回のクラウンもそのあたりのエッセンスを取り入れていくなら思い切って 幅を1,950mmくらいとって欲しかったですね。そうすればもっと高級感は出せた筈ですが、それよりも立体駐車場に入る可能性をとったのでしょう。
「Black Package」なる流行りのダーククローム仕様も勿論用意して、ここら辺は抜かりない感じになってきました。
内装は 未だ日本の応接間感が抜けきれませんが、かつての事を思えば 相当良くはなっています。今までのクラウンユーザーの方にも、若い新しいカスタマーにもどちらにも通用する落とし所をあえて狙っているのだと考えれば このデザインにも納得が行きます。
価格は2.5のハイブリッドで730万円、FCEVは830万円。 例えば今 Cクラスが690万円からですが、色々オプションを足していくと800万円。かつて Cクラスを買う人はクラウンと比較することは無かったかもしれません。ですが 最近のキャラクターが希薄な Cクラスを買うより、色々と豪華で快適なこちらにしようか という人もたくさんいるような気がします。メルセデスが Sクラスで始めた「近年最大の発明」とも言われるこのヘッドレスト・ピローを 堂々と用意してくるあたりにトヨタの本気を見た気がしました。
- Keywords:
- Sedan