The Rolex Report Season 3

season2 に続いて「Daytona Ultimatum」オークションを中心に、注目ロットの結果を見ていきましょう。

【fig.19】Lot.7 : 6239 YG Paul Newman “Golden Pagoda”
【fig.19】Lot.7 : 6239 YG Paul Newman “Golden Pagoda”
一般的に金無垢のポールニューマンのうち、シャンパンカラーは比較的数がある (それでも相当に少ない) ため市場価格は最も低いとされていましたが、多くはプラスティックベゼルの 6241 として存在。金無垢の 6239 ケースに入ったシャンパンポールの個体は珍しく、かつこの個体はケースやベゼル、文字盤のコンディションがトップレベルだったためにシャンパンポールとしてはワールドレコードの 948,500 CHF (邦貨 1 億 470 万円) を記録しました。これは同時出品の MK1 パンダや JPS をも上回る驚きの結果であり、ある意味今回の最大のサプライズのひとつだったと言えるでしょう。金無垢の 6239 はベゼルも含めて研磨や使用によりシェイプが崩れてしまう事が多いのですが、この個体はエッジもシャープで、今後これ以上の個体はないのでは、と思わす魅力があったように思います。
【fig.20】Lot.12 : 6241 YG Paul Newman ”Bumble bee”
【fig.20】Lot.12 : 6241 YG Paul Newman ”Bumble bee”
同じシャンパンポールでこちらはプラスティックベゼルの 6241 ケースの個体。本来なら同コンディションならば前述の 6239 よりもこの 6241 の方が相場的には上と言えるのですが、個体コンディションはかなり 6239 が上でした。こちらも悪くないコンディションではありましたが 10 時のルミナスに黒ずみがあったのと、前述の 6239 のケースシェイプが余りにも綺麗だったのでその影に隠れた感じの印象に。それでも 6241 シャンパンとしてはかなり高値の 516,500 CHF (邦貨 5,700 万円) を記録しました。
【fig.21】Lot.17 : 6263 Mk1 Panda Paul Newman “Ricciardi”
【fig.21】Lot.17 : 6263 Mk1 Panda Paul Newman “Ricciardi”
一般的にデイトナのポールニューマンと言えばこのモデルが最も有名かもしれません。ノンオイスターのポールには赤字で DAYTONA と入るのですが、このオイスターの 6263 のポールはそれが無く、外周ミニッツサークルにも赤がないので、白と黒だけのデザインとなり通称「パンダ」と呼ばれる訳です。そのパンダには生産時期によるフォントの違いで MK1, Mk1.5, Mk2 と分類されるのですが、最も人気の高いのは勿論、最初期の Mk1 パンダになります。Mk1 パンダはロゴも、よりクラシックな書体となり、かつケースは OysterDown と同じ 2.08-2.20 の限定されたシリアルにしか適合しませんので、非常に価値が高いという訳です。今回はその Mk1 パンダの中でも特別な個体で、ブエノスアイレスにあった Joyeria Ricciardi という宝飾店で売られた個体。そしてこの時計は、前述のデイトナ本に掲載されている個体そのもの。その出自を考えれば、世界で最高の Mk1 パンダのひとつだったと言っても良いでしょう。結果は 756,500 CHF (邦貨 8,350 万円) となりました。
【fig.22】Lot.17 : 6263 Mk1 Black Tropical
【fig.22】Lot.17 : 6263 Mk1 Black Tropical
ここのところ注目が高まってるノーマル系文字盤の 6263 Mk1 の黒文字盤のトロピカル。トロピカルとは、黒だった部分が経年変化でブラウンになった、言わばひとつの”劣化”とも言える訳なんですが、ブラウン化する個体は珍しいため、マーケットでは当然値段は高くなります。シリアル3.99は一般的マッチングから言えば少し遅いシリアルなのですが、個体履歴とボックス&ペーパーで問題なしと判断されたのでしょう。ブラウンの色合いは綺麗に全体的に変色しており、アピアランス的にも独特の魅力があったと思います。かつてはポールニューマン至上主義というくらい、ポールニューマンだけが高かった時代もあったのですが、デイトナマーケットの成熟とともに、ノーマル文字盤系にも確固たるファンが現在はついているので、いまではノーマルのブラック文字盤でも、レアなものにはポールニューマン以上の価値が見出されるようになりました。この Mk1 のブラウンの結果は 218,750 CHF (邦貨 2,400 万円)。もしルミナスの状態が完璧で、シリアルが 2.6-2.9 あたりなら、30 万 CHF も狙えたと思います。
【fig.23】Lot.22 : 6263 Big Red ”New Old Stock”
【fig.23】Lot.22 : 6263 Big Red ”New Old Stock”
こちらは 85 年製のシリアル 8.83 のいわゆるビッグレッドと呼ばれる 6263 です。ノーマル系 6263 の中では最も生産数が多く、かつては日本でもどこの時計屋にも売っていて「スタンダードな手巻きデイトナ」というイメージでした。しかしながらここ数年の高騰により、ビッグレッドの相場も 8-10 万ドルくらいまで上昇してきました。今回のオークションに個体はなんと未使用に近い状態で、いわゆる ”New Old Stock” というコンディション。勿論ケースシェイプや文字盤、ベゼルの状態も完璧に近く、まさにタイムカプセルから出てきたような個体でした。その辺りが高く評価され、結果は 243,750 CHF (邦貨 2,700 万円) 。ビッグレッドで 24 万 CHF というのはまさに常識はずれの金額で、ノンオイスターのポールニューマンに匹敵するような数字。勿論、デイトナオークションということによる御祝儀相場という側面もありますが、やはり最近のデイトナの人気を反映した結果と言えると思います。
【fig.24】Lot.28 : 6263 YG “Oyster Sprit”
【fig.24】Lot.28 : 6263 YG “Oyster Sprit”
6263 は金無垢ケースになるとクロノグラフ検定を通したという文字が入るため中央上のロゴが 4 ラインになるのですが、実はそれが金無垢なのに 3 ラインという Mk1 というモデルがあります。このオイスタースプリットはその Mk1 文字盤の次に作られたモデルで、4 ラインではあるのですが、上下 2 段に分断されて表記されているのが特徴。スプリットされてることで、文字盤にはやはり独特の表情が出ます。ここ最近に存在がクローズアップされてきたモデルで、人気も上昇中。通常の 4 ラインの 6263 よりも大きく高値の 287,500 CHF (邦貨 3,170 万円) をつけました。昨今の金無垢人気を反映した結果と言えるでしょう。これはステンレスのポールニューマンに匹敵する金額ですが、オイスタースプリットの方が圧倒的に数は少ないので、考えようによってはアンダーヴァリューと言えるかもしれません。
【fig.25】Lot.23 : 6239 Double Swiss Underline
【fig.25】Lot.23 : 6239 Double Swiss Underline
初めてデイトナが生産されたのは 1963 年で、モデルは 6239 でした。そのデイトナ黎明期の 6239 の中で最も有名なのがこのモデル。文字盤の 6 時の位置の小さな SWISS の文字が実は 2 つあることからダブルスイスと呼ばれています。ただダブルと言っても、よく見ないと下の SWISS の文字は殆ど見えないので、デザイン的には華美ではなく、むしろ質素というかシンプルそのもの。デイトナに詳しくない人からすれば、何故この時計が高価なのか、全く理解しずらいモデルのひとつかもしれません。今回の個体はシリアル 0.923.233 という超初期のケースで、アンダーライン入りの個体。特筆すべきはその文字盤のコンディションで、オークション前からこれは世界でもトップのダブルスイスかも、というディーラー間での評価でした。こういうディーラー間の噂は一瞬で広まるもので、結果はやはり 275,000 CHF (邦貨 3,035 万円) という高評価。このステンレスのともすれば質素なクロノグラフが、瞬間的価値とはいえパテックのプラチナ製の永久カレンダークロノグラフよりも高いという事実は非常に象徴的な出来事と言えるでしょう。
他に同時期にジュネーヴで行われたオークション結果も見て行きましょう。
【fig.26】6239 Paul Newman “Tiffany & co.”
【fig.26】6239 Paul Newman “Tiffany & co.”
かつて一世を風靡した TIFFANY ダブルネーム。当時アメリカ市場でのブランド価値を高めたかった ROLEX が Tiffany ブティックに置いてもらって、同じモデルを Tiffany のロゴ入りで販売していたという歴史的な経緯がありました (パテックは今でもアメリカでは Tiffany でロゴ入りを一部販売しています) 。その時は勿論、アメリカの定価、つまり普通のロレックスと同じ値段で売られていたのですが、後にダブルネーム人気が加熱し、Tiffany モデルが高騰。多くのフェイクが出回る事態となったのはご承知の通りです。ダブルネームは鑑定が非常に難しいため、オークションハウスもあまり出品を受けなかった時期もあったのですが、ここ最近は年代ごとの Tiffany のフォントや印刷技術の特徴がハッキリと知識体系化され来たこともあって、履歴も含めてしっかりしたものに関してはオークションに出るようになりました。ステンレスのノンオイスターのポールニューマンの Tiffany に関してはハッキリした事はいえませんが、全てステンベゼルの 6239 として存在し、白ポールが5本、黒が 3 本の合計 8 本くらい存在するのでは、と言われています。今回は昨年の N.Y オークションに引き続きまた 6239 白の赤巻ポールの Tiffany が出て来ました。夜光の状態はそこまで良くはないのですが、そもそも 5 本しか無いわけですから、こういうモデルは仕方がないところではあります。結果は 396,500 CHF (邦貨 4,376 万円) でした。PHILLIPS は同時期にデイトナオークションもあったのに、このモデルをそこに入れなかったのは象徴的です。今はダブルネームよりも、ロレックスとしての歴史的価値やコンディションを重視するという事かもしれません。
【fig.27】6241 YG Jumbo Daytona
【fig.27】6241 YG Jumbo Daytona
歴史上初めて生産された金無垢のデイトナは実は 6241 でした。そのごく初期にだけ通称ジャンボと呼ばれるデイトナの文字が大きく表示されてるモデルがあります。その金無垢バージョン。デイトナの金無垢に関していうとノンオイスターの方が圧倒的に少なく、その中でもジャンボはかなりレアな存在。今回のクリスティーズの個体はシリアルが 1.75 とやや遅いのですが、これをオリジナルと判断してリストして来ました。意外にも金無垢の 6241 ジャンボがクリスティーズに出るのは初めてだったとか。日本でも最近金無垢のジャンボは人気があって、数本は存在している筈です。結果は 237,500 CHF (邦貨 2,620 万円) と高評価に。ただしケースがもし1.5シリアルであればもっと高値がついたと推測されます。
【fig.28】6241 Paul Newman ”Tropical”
【fig.28】6241 Paul Newman ”Tropical”
サザビーズの注目の 1 本は 6239 の白ポールのインダイアル・ブラウンです。ポールニューマンのトロピカルには 2 種類あって、外周の黒いサークルがブラウン化する場合と 3 つのインダイアルがブラウン化する場合です。色によっても黒に近い濃いブラウンの場合はモカとか、タバコと表現することもあります。今回の個体は綺麗なインダイアルブラウン。ポールニューマンはブラウン化する個体が特に少ないため、高額落札が予想されてはいましたが、なんと 951,000 CHF (邦貨 1 億 500 万円) という Mk1 パンダより高い評価となりました。トロピカルの評価はどれだけブラウンに見えるか、均等に綺麗にブラウン化してるか、などの要素で決まってきます。PHILLIPS のデイトナオークションの方にも実はインダイアルブラウンのポールが出てたのですが、そちらはほんの少し茶色いくらいで角度を変えて見ないとトロピカルとわからない程度だったので、この半分以下の 372,500 CHF (邦貨 4,100 万円) という評価でした。やはりトロピカルはどれだけ綺麗にブラウンなのか、というところが論点になるのでしょう。
【fig.29】6264 Paul Newman “Lemon”
【fig.29】6264 Paul Newman “Lemon”
最後に紹介するのは香港でのクリスティーズのハイライト。金無垢のポールニューマンで最も価値が高いと言われているのがこのレモンと呼ばれるポールニューマンになります。文字盤の色はシャンパンよりも、イエローがかったカラーとなり、かつ通称「ホワイトグラフィック」つまり白文字のインダイアルという特徴を持ち、独特のアピアランスになります。さらにレモンが高価な理由は、ケースがレモンの場合は基本的に 6264 になる事。金無垢の 6264 自体がまずかなり少ないケースですから、これも当然プライスに反映されます。昨今は JPS 人気の台頭で、レモンと JPS の価格差がどうなるかというのも注目でしたが、結果はやはり 9,820.000 香港ドル (邦貨 1 億 3,670 万円) と、JPS を大きく引き離しました。ただし今回のこの個体はトップディーラーが口を揃えて、最高レベルのコンディションと言っていた個体ですから、JPS もこのレベルの個体が出てきたらもう少し差は小さかった可能性もありますね。これで、6264 レモンより高いポールニューマンは 6263 OysterDown と、6263 の金無垢のオイスターポール (これもレモン配色) だけとなりました。レモンは色んな意味で、この数年のデイトナの高騰を象徴する 1 本になったと言っても良いと思います。

ジュネーヴ・オークションを終えて

今回のジュネーヴでのオークションでは、ほとんど全てのデイトナが相場よりも概ね、高い水準で落札されました。コンディションの良かった個体については、その多くがワールドレコードを記録。また金無垢モデルと、ポールニューマンはやはり安定して強かった印象。マーケットプライスはオークション結果に従うので、今後もデイトナに関しては、暫くこの趨勢が続くと予想されます。ポールニューマン以外のノーマル文字盤系モデルでも数が少ないモデルや、コンディションが良い個体に関しては需要がフォーカスされる状況が続くでしょう。またこれだけ手巻きデイトナの価格が上がってくると、おそらくは次に生産された自動巻きモデルのデイトナ (16520) にもこの流れは波及して行くと推測されます。
次に、やはり重要な事はオークションの結果が、一夜にしてマーケットプライスに反映されるという事実です。オークションの前日に 10 万ドルだった時計が、翌日には 15 万ドルという事もあり得る訳です。もちろんコレクターもその事は当然承知しているので、オークションに出品される予定の時計と同じモデルを、オークションの前に買おうとします。ディーラーはオークションでの値上がりを加味して高めの値段をオファーする事になりますので、オークションの前にまず 1 回相場が上がります。そしてオークション結果が、それを更に上回るので、また上がるという仕組みです。大きなオークションが年に 2 回あるとすれば、その前後、計 4 回もマーケットプライスが上がるタイミングがある事になりますね。その辺りの構造も、この現在のマーケットの趨勢に少なからず影響を及ぼしていると見てとれます。勿論、本来は時計を買う時にはその時計の資産価値とは関係なく、自分が好きな時計を買うのが、正しい在り方なのでしょう。ですがコレクターの多くはやはり、資産価値とその将来性を視野に入れてるのが現状です。
ヴィンテージロレックスを買うという事は、それがどんな金額のモデルであろうと、オークションを中心とした「ウォッチ・サーキット」という名のレースに参加するという事を意味します。今まで遠い存在に感じていたジュネーヴでのオークション結果も、もはや無関係ではありません。このレースは、あなたがその時計を売却し、いつかサーキットから去るその日まで、ずっと続く長いレースになります。場合によっては人生をかける価値もあるでしょう。ヴィンテージロレックスの魅力とは結局のところ、この事実に尽きると思います。

written by *Visionary Tokyo